何かにつけ隣の嫁と比べる姑。「あちらは小遣いも旅行もくれるのに」――私は笑って「では、お義母さんも隣のお姑さんと比べてみましょうか」。続けて“ある違い”を口にすると、夫まで黙り込んだ。感動の物語

第1部 親族の前で比べられた日、私はもう我慢しないと決めた

 

「まゆみさん、少しは隣のお嫁さんを見習ったらどうなの?」

年末の親族の集まりで、義母のその言葉が座敷に響いた。

それまで賑やかだった空気が、一瞬で冷たくなった。

親戚のおじやおばたちは気まずそうに目をそらし、隣に座っていた夫の高一は聞こえないふりをしてビールを注いでいた。

私は怒らなかった。

泣きもしなかった。

ただ膝の上に置いたバッグの持ち手を静かに握りしめた。

なぜなら、そのバッグの中には、義母の知らない証拠が入っていたから。

そして数分後、この場にいる全員が知ることになる。

私が本当に何をしてきたのかを。

その日は義母の家で開かれた、毎年恒例の親族会だった。

朝早くから私は台所に立ち、お寿司の準備をし、料理を並べ、親戚たちを迎える準備をしていた。

夫の高一は「俺は料理が苦手だから」と言ってテレビを見ているだけ。

義母は親戚と楽しそうに話しながら、お酒を飲んでいた。

私はそれを7年間続けてきた。

義母の病院の予約。

市役所の書類。

薬の管理。

家電の修理。

日常生活の細かい手続き。

誰にも見えない仕事を、私はずっと背負ってきた。

でも、それを義母は知らなかった。

いや、正確には「知らないふり」をしていたのかもしれない。

宴会の途中、義母は隣の家の奥さんの話を始めた。

「佐木さんのお嫁さんなんて本当に優しいのよ」

「毎月2万円、お母さんにお小遣いを渡しているんですって」

「温泉にも連れて行ってくれるらしいわ」

親戚たちは「いいお嫁さんね」と口々に言った。

そして義母は私を見た。

「まゆみさん、少しは見習ったら?」

その瞬間、私は数日前の出来事を思い出した。

私は夫に言っていた。

「毎回、隣のお嫁さんと比べられるのがつらい」

「次に言われたら、高一さんから止めてほしい」

夫はその時、確かに言った。

「分かった。次は俺が言う」

だから私は、今日こそ守ってくれると思っていた。

しかし。

高一は私と目が合った瞬間、すぐに視線をそらした。

「まあまあ、母さんも酔ってるんだから」

そう言って、親戚のグラスへお酒を注ぎ始めた。

私を守るより、その場を丸く収めることを選んだ。

その瞬間、私の中で何かが切れた。

私はゆっくりバッグを開いた。

そして一冊の小さな手帳を取り出した。

義母の冷蔵庫横に貼ってある予定表のコピー。

そこには、私が書き続けた7年間の記録が残っていた。

「眼科予約」

「市役所手続き」

「エアコン修理立ち合い」

「介護保険更新」

義母の生活を支えてきた、私の時間の証明だった。

私はその紙をテーブルの中央に置いた。

「そうですね」

私は微笑んだ。

義母は少し驚いた顔をした。

いつものように私が謝ると思っていたのだろう。

「では、お義母さんも隣のお嫁さんと比べてみませんか?」

その一言で、座敷は完全に静まり返った。

夫の顔から笑顔が消えた。

義母の表情も固まった。

私はまだ、本当のことを半分しか話していなかった。

隣のお嫁さんが毎月渡している2万円。

その本当の意味を、私は知っていた。


第2部 2万円の裏側を知った時、義母は初めて涙を流した

「お義母さん、隣の奥さんが毎月2万円渡していること」

「それだけを見て、私と比べていますよね」

私は静かに話し始めた。

親戚たちは息を止めて聞いていた。

「でも、その2万円が何のお金なのか知っていますか?」

義母は少し顔をこわばらせた。

「お小遣いでしょう?」

私は首を横に振った。

「違います」

私は以前、隣の奥さん本人から聞いていた。

その2万円は、単なるプレゼントではなかった。

隣の奥さんは、義母であるふみ子さんから過去にたくさん支えてもらっていた。

子供が小さい時、毎日保育園へ迎えに行ってくれた。

夕飯を作って待っていてくれた。

仕事で遅くなる時も、家族を支えてくれた。

だから今、その恩返しとして渡しているお金だった。

「お義母さん、もし私が毎月2万円渡したら、私の代わりに毎日病院へ付き添ってくれますか?」

義母は黙った。

「役所の書類を全部確認してくれますか?」

「薬の管理をしてくれますか?」

「仕事を休んで、何時間も病院で待ってくれますか?」

私は責めるためではなく、事実を伝えた。

「できないことは仕方ありません。でも、していないことだけを見て、私を比べないでほしかったんです」

その時、息子の優馬が口を開いた。

「おばあちゃん」

「母さんがおばあちゃんのために使った時間、お金にしたら2万円じゃ絶対足りないよ」

義母は俯いた。

そして初めて、自分が見ていたものが表面だけだったと気づいた。

しかし、夫の高一はまだ私を責めた。

「でも正月の席で母さんを恥かかせる必要があったのか?」

私は悲しかった。

この人はまだ分かっていない。

私が傷ついたことではなく、母親が傷ついたことだけを心配している。

その日の夜、家に帰ってからも夫は不機嫌だった。

数日後、義母の眼科予約の日が来た。

今までなら私が仕事を調整して付き添っていた。

しかし今回は違った。

「高一さん、あなたのお母さんですよね」

私はそう伝えた。

夫は初めて一人で病院へ向かった。

そこで彼は現実を知った。

受付で必要な書類が分からない。

薬の説明を理解できない。

医師の話を整理できない。

たった一日の付き添いで、夫は疲れ果てて帰ってきた。

「……今まで、これを全部やっていたのか」

その夜、夫は小さな声で言った。

私は答えなかった。

言葉ではなく、自分で気づいてほしかったから。

さらに数日後、義母から突然電話が来た。

「まゆみさん……」

声が震えていた。

「私、今まで間違っていたわ」

義母は言った。

隣の奥さんが羨ましかったのは、お金ではなかった。

一緒に買い物へ行く姿。

一緒に旅行へ行く姿。

息子夫婦との温かい時間。

それが羨ましかったのだと。

「私、本当は寂しかったの」

その言葉を聞いた時、私の心の中の怒りが少しだけ消えた。

義母は私を傷つけた。

でも、その奥には孤独があった。

私は完全に許したわけではない。

でも、初めて義母の本当の気持ちを理解した。

その後、私たちは家族で話し合った。

もう誰か一人が我慢する生活はやめる。

夫も義母の生活を支える。

私だけが背負わない。

できる人が、できる時に、できることをする。

それが本当の家族だと決めた。

数ヶ月後。

私たちは3人で近所の梅林公園へ出かけた。

高級旅館でもない。

高価なプレゼントでもない。

ただ車に乗り、一緒に歩き、昔ながらのうどん屋で昼食を食べるだけ。

義母は何度も笑った。

「こんな時間が一番幸せね」

その笑顔を見て、私は思った。

人が本当に欲しいものは、お金ではない。

誰かに大切にされているという実感なのだ。

冷蔵庫の横に貼った予定表。

以前は私の字だけで埋まっていた。

でも今では、夫の字も、義母の字も増えている。

家族とは、誰か一人が犠牲になることではない。

比べることでもない。

互いの存在を認め、支え合うこと。

私はようやく、そんな当たり前の幸せを手に入れたのだった。