私の名前は菅田り子。40歳の会社員で、結婚10年目の夫・公平がいる。同じ40歳で、もともとは取引先の担当として知り合った。気さくで明るい彼に惹かれ、告白されて交際を経て結婚した。子どもはいないが、まるで親友のような夫婦関係で、互いに支え合いながら毎日を過ごしていた。
ところが3ヶ月前から、公平の行動が変わった。それまで携帯をほとんど気にしなかったのに、どこに行くにも手放さなくなったのだ。トイレや風呂にまで持ち歩く。ゲームにハマっていると言うが、画面を覗こうとすると隠す。浮気を疑わずにはいられなかった。飲み会だと遅くなる日も増え、休日に急に出かけることも増えた。
ある日、会社の飲み会で同じテーブルにいた後輩の佐藤みささんが、彼氏ができたと自慢し始めた。27歳の彼女は、マッチングアプリで出会った相手に初対面で交際を決めたと言う。周りが盛り上がる中、彼女はデートの話を楽しそうに語っていた。すると、隣にいた社員が「え、お相手機なの?」と驚いた声を上げる。みささんの彼氏は既婚者で、離婚に向けて話を進めているらしい。いいタイミングで出会えたのは運命だと、彼女はあっけらかんと言う。
そして、彼女がスマホの写真を見せてきた。そこに写っていたのは、間違いなく公平だった。ふたりは恋人同然に抱き合っている。みささんは「公平さんって言うんですけど、結構イケメンですよね」と、何も知らずに得意げだ。ふたりが交際を始めたのは3ヶ月前。公平が不審な行動を取り始めた時期と一致する。私はショックというより、むしろ証拠が揃ってよかったとさえ思った。公平への気持ちは、その瞬間に完全に冷めていた。
みささんの話では、公平は私のことを「家事もしないグータラで、気に入らないとすぐ手をあげる人」だと言っているらしい。全部嘘だ。私は家事をサボったことも、手をあげたことも一度もない。むしろ家事を一切しなくなったのは公平の方だ。結婚当初は分担しようと決めたのに、彼は「仕事が忙しい」「女がやるのが世間の常識」と言い出した。私が役職について忙しくなっても、彼は「今更俺が家事やるのもね」と言ったきり、何も変わらなかった。それなのに、自分の株を上げるためにこんなデマを流されると、腹が立って仕方ない。
それからも、公平が飲み会だと出かける日は決まって、みささんのインスタが更新された。ふたりが一緒にいる写真ばかりだ。彼女は私に嬉しそうに自慢する。不倫相手の嫁を目の前にしているとは、本人は全然気づいていない。彼女は「彼奥さんよりも私の方を愛してるらしくて。本当早く離婚が成立して欲しいですよね」とまで言う。周りから「訴えられるよ」と止められても、「不倫がバレる前に離婚が決まれば問題ない」と開き直っていた。残念ながら、もう積んでいるのに。
そろそろ決着をつけようと思った私は、みささんを自宅に招待した。公平には「会社の後輩が遊びに来る」と伝え、逃さないようにしておいた。週末、インターホンが鳴り、みささんが来た。リビングに案内すると、公平とみささんは顔色を変えて固まっている。驚くふたりに、私は冷静に言う。「改めて紹介するわね。私の旦那の公平よ。まあ、詳しい紹介は必要ないと思うけど」
みささんは「まさか私を差しおいて横取りですか?」と睨んでくる。どっちが横取りだと言いたい。私は結婚当時の写真を見せた。10年前のものだが、私たちだと十分分かる。真実を知ったみささんは顔面蒼白で、公平は油汗を流しながら言い訳を探している。私はふたりを座らせ、話し合いを始めた。公平は逃げられないと悟ったのか、あっさり浮気を認め、土下座して謝った。今更そんな態度を取られても、何も感じない。
みささんは黙り込んでいたが、公平が「彼女とはただの遊びだったんだ」と言った瞬間、怒りが爆発した。「あんなに愛してるって言ったじゃない。嫁とは離婚して一緒に暮らすって」彼女は泣きながら公平を責める。ふたりの押し問答がヒートアップしていく。正直、見ていて面倒になってきた。私は強制的に話を終わらせることにした。「とりあえず2人には慰謝料を払ってもらえます。その後あなたたちが結婚するもしないも2人の好きなようにどうぞ」そう言って、記入済みの離婚届を公平の前に突き出した。
公平は「離婚だけは考え直してほしい」と言い続けるが、聞く耳を持たない。「私は家事もしないで手をあげるような凶暴な嫁なんでしょ。そんな女とは別れた方がいいんじゃない?」そう言い返すと、さすがに彼は何も言えなくなった。「私たちはもう終わりだから。自分で全部壊したのよ」その言葉に、公平は力なくソファに寄りかかっていた。みささんにも自分の朝を自覚して、責任は自分で取るように伝えた。
その後、正式に離婚が決まり、公平には300万、みささんには100万の慰謝料を請求した。みささんは「騙されていただけ」と反論したが、「既婚者と分かった上で交際を続けた時点で言い逃れはできない」と言い返すと、しぶしぶ了承した。公平は最後に「軽い気持ちでやったことで全てをぶち壊してしまった。本当にごめん」と謝ったが、私の胸には一切響かなかった。みささんは翌日から無断欠勤を繰り返し、しばらくして解雇になった。噂では、公平とも結局破局したらしい。
今の私は新しく借りたマンションで、自由気ままな一人暮らしを満喫している。経済的に不自由はないし、しばらくはこの生活を続けるつもりだ。



