大好きだった義姉が突然この世を去った。悲しみに暮れた葬儀当日、夫から信じられない連絡が入った。
「絶対に葬儀場に来るな。逃げるんだ。」
意味が理解できず、夫の慌てた様子にただ戸惑うだけだった。葬儀に行けない悔しさと、何が起きているのかわからない不安が押し寄せた。
私は井口涼子、27歳。夫のりやは同じ職場の上司で、交際期間を経て結婚したばかりだった。勤務先が同じだと気を使うため、私は退職して別の会社で働いている。結婚生活は順調で、夫は優しく、平凡だが幸せな日々を送っていた。
義姉とは初めて会った瞬間から気が合い、頻繁に買い物に出かけ、二人で旅行に行くほど仲が良かった。実の姉とは正反対の性格で、義姉といる方がずっと居心地がよかった。
しかし、そんな義姉は長い闘病生活を送っていた。少しでも元気でいてほしくて、私は入院中も何度も見舞いに通った。それなのに、義姉は少し前に亡くなってしまった。
義姉を失った悲しみで、私は食事も喉を通らず、涙が止まらない日々を過ごした。ところが夫は、実の姉が亡くなったのに悲しむ様子もなく、いつもと変わらない生活をしていた。以前、義姉から聞いた話では、夫と義姉はあまり親しくなく、話す機会も少なかったらしい。義母も夫にばかりべったりで、義姉にあまり関心がないように見えると、義姉は寂しそうに話していた。
そして、義姉との最後のお別れとなる葬儀当日。夫は「家族でやることがある」と言い、私だけ先に会場へ向かおうとした。だが、夫に拒否され、葬儀の準備を手伝うこともできなかった。葬儀の時間が近づき、家を出ようとしたその時、夫から慌てた電話がかかってきた。
夫の切羽詰まった様子に、ただごとではないと感じた私は、言われた通り実家へ避難した。実家に帰ると、両親は驚いた顔で私を迎えた。そして、父が納得したように頷きながら話し始めた。
夫の親族を名乗る男から電話があったらしい。私のことを散々「人でなし」と罵倒し、慰謝料を請求した挙句、要求に応えなければ家に火をつけると言ってきたという。電話口で興奮し、声を荒げている様子を不審に思った父は、詐欺だと思い録音しておいたそうだ。
その話を聞いていると、息を切らせた夫がやってきた。夫は両親に深く頭を下げ、親族の行動を詫びた。そして、夫が説明した内容は、私の理解を完全に超えていた。
義姉の遺言には、信じがたいことが長々と書かれていたのだ。



