「ねえ、この人と仲良しなんでしょ?」娘のその一言に、妻の顔が一瞬で真っ青になった。私たち夫婦の前で、妻が浮気相手と電話をしているところを、高校生の娘が見抜いてしまったのだ。 「違うの、これは…」妻は慌てて言い訳をしようとしたが、娘はスマホを私に差し出した。画面には、妻と知らない男のメッセージのやり取りが表示されていた。「今夜、ホテルで会おう。」…

「ねえ、この人と仲良しなんでしょ?」娘のその一言に、妻の顔が一瞬で真っ青になった。私たち夫婦の前で、妻が浮気相手と電話をしているところを、高校生の娘が見抜いてしまったのだ。 「違うの、これは…」妻は慌てて言い訳をしようとしたが、娘はスマホを私に差し出した。画面には、妻と知らない男のメッセージのやり取りが表示されていた。「今夜、ホテルで会おう。」...

大人三人全員が固まり、耳を疑った。信じたくない一人は大きな声を出したが、娘は部屋に立つと、ユマの方にスマホを向けて通話中の相手に質問をした。
「ねえ、この人と仲良しなんでしょ?」
質問された本人は自信満々に「そうだ」と言って電話を切ったが、二人は真っ青な顔をしていた。
俺を裏切っていい条件の相手を見つけられたと思ったが、違った事実に耐えられなかったのか。妻は大きな声で叫んだ。

俺の名前は高橋ケト。幼少期に両親を亡くし、祖父母もいなかったために、俺は施設で育った。環境が良く優しい先生が多かったが、寂しさを感じなかったわけではなかった。学校行事で仲のいい家族を見た時に憧れを抱いて、切ない気持ちになったこともあった。

そんな自分も成長するにつれ、下の子たちが入ってくると変化した。兄貴風を吹かせるわけではないが、施設育ちというだけで嫌な思いをすることも多く、その子たちを守るのが日課になっていた。自分で言うのもなんだが、慕われている方だった。
そんな彼らと離れるのは寂しかったが、高校卒業と共に量のある職場で働き始めた。その時も悪い人たちだけではないが、どうしても立ち場で嫌な思いをすることもあった。見返してやりたいという思いから夜間学校に通うようになったが、その姿勢を見た当時の会社の社長から気に入られ、色々なことを教わった。結果、会社経営に興味を持ち、そっち方面の資格を取った。

音のある社長の元を離れるのは名残惜しかったが、経営コンサルとして経験を得るために、イベントもやる会社に転職した。後に妻になる前と出会ったのは、その会社でのイベントだった。
がいない中小企業と、企業を目指したいと考えている若者とのイベントだった。形としてはパーティーに近く、前はそこである社長の秘書として同行していたのだ。
綺麗な容姿をしているが、どこか影があるように見え、イベントで忘れ物をしていった前と連絡を取ったことで、少しずつ距離が近くなった。交際中に前の立ちと俺のたちは似ているところがあり、同じように家族に憧れを抱いていると分かり、意気投合し結婚した。

結婚してすぐは怖いくらい順調だった。会社でも忙しい毎日に疲労しながらも、帰れば愛する妻がいて充実した毎日だった。そしてすぐに家族が増えたことも嬉しかった。
「家族が増えるわ。」
前のその言葉に俺は歓喜したが、前は浮かない顔をしていた。
「どうした?嬉しくないのか?」
「嬉しいが、過去を思うと子育てに対して不安だ。」
泣きそうな顔をする前に、俺はできるだけサポートすると約束した。前は安心した顔をしていたが、妊娠中ずっと不安定になっていった。

「サポートしてくれるって言ったくせに。」
できるだけ早く帰ったり、料理が苦手な前のために作り置きを作ったり、家事はなるべく休みの日にやってサポートをしているつもりだったが、前には足りないようだった。
大した趣味がなかった俺は、貯金もそれなりにあったし、人脈も経験も得られたと考え、思い切って独立し、自宅に仕事場を作ることで家族中心の生活ができるようにした。
ただ、これが良くなかったかもしれないと気づいたのは、ずっと後だった。

娘の名前は正しく美しくで、正美と名付けた。まみはすくすく成長し、活発で聡明な明るい子に育った。高校生になる頃には家事も手伝ってくれるようになり、在宅とはいえ助かる部分が多く感謝していた。
だが、そんな美とは反対に、妻の前の態度は悪くなる一方だった。働くことを拒んだ前に、生活していくためには俺が働かなければならなかったが、出産後回復してもほとんど家事をしなかった。

「これから忙しくなるから、曜日で夕飯作りの担当を決めるのはどうかな。難しいものじゃなくていいからさ。」
「へえ。私、作り置きだって気にしないから、今まで通りでいいんじゃない?だって私が作るよりケトの方が上手だし。」
前の返答に少し疲れていた俺は、肯定できずに黙っていた。すると前は面倒そうに考えた後、提案をしてきた。

「それなら、私の代わりに正美に手伝ってもらえばいいんじゃない?」
正美はまだ高校生だ。勉強も部活も忙しいのに、そんなことをさせるわけにはいかない。
「正美に負担をかけるのはおかしいだろ。」
「だって、あの子は家事が好きみたいだし。それに、私がやるより上手だしね。」
前は笑いながらそう言ったが、その言葉に正美は複雑な表情を浮かべていた。俺は何度も前と話し合おうとしたが、そのたびに前は話題をそらした。

正美が高校三年生になった頃、前の様子がおかしくなった。スマホをやたらと気にするようになり、俺の前でも隠すように操作するようになった。
「誰と連絡取ってるんだ?」
「別に、友達と話してるだけよ。」
前の返答は歯切れが悪く、何か隠しているようだった。
ある日、正美が学校から帰ってくると、前がリビングでスマホを見て笑っていた。正美が近づくと、前は慌ててスマホを隠した。
「お母さん、誰と話してたの?」
「何でもないわよ。」
正美は疑いの目を向けたが、前は無視して自分の部屋へ戻っていった。

その日の夜、正美が俺のところに来て言った。
「パパ、お母さん、変だよ。最近、よく外にも出かけてるし。」
「仕事の付き合いかもしれないだろ。」
「でも、パパに内緒で何かしてる気がするの。」
正美の言葉に、俺は胸がざわついたが、気のせいだと思うことにした。
しかし、数日後、正美が泣きながら帰ってきた。
「パパ、お母さんが…他の人と会ってるのを見た。」
正美の話によると、前が駅前のカフェで知らない男性と楽しそうに話していたらしい。
俺は前を問い詰めた。
「正美が見たって言ってたぞ。誰と会ってたんだ?」
「え?何言ってるの?ただの友達よ。」
「友達で、俺に内緒で会うのか?」
「あなたに言う必要ないでしょ。私の友達なんだから。」
前は開き直った態度で、話し合いにならなかった。

それからも前の行動はエスカレートしていった。夜くに出かけることもあり、俺が問い詰めると、いつも「友達と会ってるだけ」と言い訳をした。
正美はそんな前の姿を見て、どんどん悲しそうな顔をするようになった。
「パパ、お母さん、浮気してるんじゃない?」
「そんなこと、あるわけない。」
俺は必死に否定したが、心の中では不安が膨らんでいた。

ある日、前がスマホをリビングに置き忘れていった。
俺はそのスマホを手に取り、ためらいながらも画面を見た。
そこには、見知らぬ男性とのメッセージのやりとりが表示されていた。
「今夜、ホテルで会おう。」
その言葉を目にした瞬間、俺の頭は真っ白になった。
手が震え、スマホを落としそうになった。

メッセージを辿ると、二人の関係はすでに長期間続いていることが分かった。
俺が家事をし、仕事をし、正美の世話をしている間、前はこの男と会っていたのだ。
俺は絶望した。信じていた妻が、家庭を顧みずに他の男と会っていた。
叱責しようと思ったが、証拠がなければ前は認めないだろう。
俺はスマホを元の位置に戻し、正美に相談した。

「正美、お母さんのこと、調べてもらえるか?」
「パパ、それって…」
「信じたくないんだが、事実なら知っておきたいんだ。」
正美は静かにうなずいた。
数日後、正美はある日を選んで前を尾行した。
前はタクシーに乗り、ラブホテルへ向かった。
正美はそのホテルの名前を写真に収め、俺に送ってきた。
「パパ、ここ。」
その画像を見た瞬間、俺の中の何かが崩れた。

俺はそのままホテルへ向かい、前が部屋から出てくるのを待った。
しばらくすると、前が見知らぬ男と腕を組んで出てきた。
前は俺に気づかず、楽しそうに笑っていた。
「前。」
声をかけると、前は驚いて顔を上げた。
「け、ケト?なんでここに…」
「正美が教えてくれたんだ。お前がここにいるって。」
前は青ざめ、男は慌ててその場を離れようとした。
「待てよ。お前、俺の妻と何をしてたんだ?」
男は何も言わずに、早足で去っていった。
前は立ち尽くしたまま、何も言えずにいた。

その夜、家に帰ると正美がリビングで待っていた。
「パパ、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。」
俺は正美の頭を撫でながら、前を見た。
前はソファに座り、顔を伏せていた。
「弁明はあるか?」
「…ごめん。」
「ごめんで済むと思ってるのか?」
前は何も言わなかった。
俺は前を見つめながら言った。
「もう終わりにしよう。」
前は顔を上げたが、何も言わなかった。
正美は俺の隣で、静かに泣いていた。

それから数日後、俺は離婚届を前の前に出した。
前はそれを見て、泣きながら「ずっと一緒にいるって約束したでしょ」と言った。
「約束を破ったのはお前の方だ。」
俺はそう言って、部屋を出た。
正美は俺の背中を追いかけてきて言った。
「パパ、私、パパのそばにいるよ。」
その言葉に、俺は涙が溢れてきた。
「ありがとう、正美。」
俺と正美は新しい生活を始めるために、家を出た。

前との離婚はすんなりと成立した。正美は俺と暮らすことを選び、前は家を出ていった。
新しいアパートでの生活は、前よりも穏やかで、正美も少しずつ笑顔を取り戻していった。
「パパ、今日の夕飯、何がいい?」
「そうだな。ハンバーグがいいかな。」
「じゃあ、私が作るね。」
正美は楽しそうに料理を始めた。
俺はその姿を見て、ゆっくりと心が癒えていくのを感じた。

数年後、正美は大学生になり、就職も決まった。
彼女は毎週末、俺のアパートに来ては、一緒にご飯を食べてくれる。
「パパ、また一緒に暮らさない?」
ある日、正美が突然そう言った。
「何言ってんだ。もう大人だろ。」
「だって、パパ一人だと心配だもん。」
俺は笑ったが、その言葉が嬉しかった。
「ありがとう、でも大丈夫だ。」
「パパがそう言うなら、いいけど…」
正美は少し寂しそうな顔をしたが、すぐに笑顔に戻った。
「じゃあ、月に一回は一緒にご飯食べようね。」
「ああ、楽しみにしてる。」

俺は気づいた。家庭を失っても、手に入れたものがあった。
親身になってくれる娘がいる。それだけで十分だと。
正美の笑顔を見ると、俺は幸せな気持ちになる。
「パパ、次は何を作ってほしい?」
「何でもいいよ。正美の作るものなら。」
俺はそう言って、正美の頭を撫でた。
家庭は形を変えたが、こうして笑い合える日々がある限り、俺は幸せだ。

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