私は倉庫を飛び出し、車を飛ばして病院へ向かった。秘書室長に連絡を入れ、み咲と子供のことを徹底的に調べさせた。

病院の5階、508号室。ドアの前で足が止まった。中から子供の弱々しい声と、み咲の優しい声が聞こえた。
私は深呼吸をしてドアを開けた。

み咲が振り返り、顔を強張らせた。ベッドの上に小さな男の子が横たわっていた。7歳くらいか。顔は青白く、鼻に管が繋がれていた。
「どうしてここに……」
み咲が立ち上がり、子供の前に体を張った。
私はゆっくりと近づき、膝をついた。子供の目線に合わせる。
「優太……お前が優太か。」

子供は不思議そうに私を見た。小さな手が伸びて、私の頰の涙を拭った。
「パパ……泣かないで。」
その瞬間、私の心は完全に壊れた。8年間、存在すら知らなかった自分の息子。血の繋がった息子が、こんなに弱々しくベッドに横たわっていた。
み咲が震える声で言った。
「出て行ってください。これは私の子供です。あなたの子供ではありません。」
私は頭を下げた。床に額を押しつけた。
「すまない……本当にすまない。8年前、俺は全てを間違えた。」
み咲は答えなかった。ただ優太を抱きしめ、肩を震わせていた。
私はすべてを話した。母が占い師の言葉を信じ、写真を捏造したこと。不倫など最初からなかったこと。み咲が妊娠していたこと。そして8年間、彼女が1人でどれだけ苦労したか、秘書が調べ上げた事実を。
み咲は静かに泣いた。
「今更……何になるの?」
「分かっている。許される資格などない。でも、せめて……優太を助けさせてくれ。」

検査の結果、私の骨髄は優太とほぼ完璧に一致した。医師は「奇跡だ」と言った。
手術の日、私は手術台に横たわり、優太の隣で麻酔を受けた。最後に見たのは、み咲の涙に濡れた顔と、優太の小さな寝顔だった。
「必ず助ける……家族として。」
手術は6時間に及んだ。成功した。拒絶反応もなく、優太の容態は劇的に回復した。
回復室で目覚めると、み咲が私の手を握っていた。
「ありがとう……本当に、ありがとう。」
私は弱々しく笑った。
「これからが本当の始まりだ。」
3ヶ月後、優太は退院した。私たちは新しい高層マンションに移り住んだ。最上階の広い部屋。窓からは東京の街が一望できた。
優太は部屋中を駆け回り、笑い声を上げた。
「パパ! ママ! ここ僕たちの家?」
「ああ、僕たちの家だ。」
私は優太を抱き上げ、み咲の肩を抱いた。み咲はまだ少し戸惑っていたが、ゆっくりと微笑んだ。
母も時々訪ねてきた。最初はぎこちなかったが、優太の笑顔を見て、少しずつ変わっていった。
ある春の日、4人で桜のお花見に行った。優太が花びらを追いかけ、母とみ咲が弁当を広げる。私はその光景を眺めながら、胸がいっぱいになった。
夜、バルコニーでみ咲と2人きりになった。
「み咲……愛してる。これからもずっと。」
み咲の頰が赤らみ、私の胸に顔を埋めた。
「私も……ようやく、家族になれたね。」
優太が寝室から飛び出してきて、2人の間に割り込んだ。
「僕も! 僕も一緒に!」
3人で抱き合い、笑った。
8年前の寒い工事現場で、私は失ったものを取り戻した。あのレンガを運ぶ小さな背中が、私の人生を変えた。
今、私はようやく「本当の家族」を手に入れた。
これからは、絶対に離さない。妻と息子を、温かいこの日々を、永遠に守り続ける。


