「お母さん、どこに行ったんですか?ちゃんと話し合いましょうよ」
「あんたと話すことなんてもうないわ」
そう言って、姑は私に離婚届を投げつけた。あまりにも突然のことに、頭が真っ白になった。
「いきなり離婚届を突きつけて、話が終わりなんてありえないでしょう?どうしてこんなことをするんですか?」
「あんたが全部悪いのよ。こっちが被害者なんだから。これ以上私たちを苦しめるのはやめてよね」
「被害者?何を言ってるんですか?私はもう7年も待ってあげたのよ。なのにあんたは全然子供を産まない。こっちにも我慢の限界ってものがあるの」
「子供ができないのは事実ですけど、それだけで私を家から追い出すというんですか?」
「当たり前でしょ。うちは代々続く本家なの。この血筋を絶やさないために、女がやるべきことは子供を産むということ。それさえやってれば、あとは何もしなくてもいいくらいなのに、あんたは肝心の子供を産まなかった」
「子供ができないのは私だけが原因じゃありませんよ。責任があるとしたら、夫婦ふたりにあると言ってるんです。だから子供が欲しいのなら、啓介にも言ってくださいよ。どうして私だけが責められないといけないんですか?」
「子供を産めないってのは、女に原因があるに決まってるでしょ。何その思い込みは?」
「こっちはあんたが子供を産んでくれると思ったから、嫁として受け入れたのに。不妊のダメ嫁と知ってたら結婚なんて認めなかった。今まで私たちから騙し取った生活費とか、全てを今すぐに返しなさい」
「騙し取った?私はそんなこと言ってないです。産みたくて、そのために頑張ってるとは言ってましたけど」
「あんたは自分の役割も果たさないくせに、よくも臆面もなく暮らしてたわね」
「私は妻としてやれるべきことはやってました。それなのに、子供を産まなかったというだけで、全てがなかったことになるんですか?」
「当たり前でしょ。それが妻の仕事なんだから。後継ぎも産めない嫁は不要。出ていきなさい」
私は啓介に話を聞いてもらおうと思った。啓介だって、こんな理不尽なことを認めるはずがない。
「啓介、お母さんに離婚しろって言われたわ」
「はあ?なんだよ、急に」
「いきなり離婚届を投げつけられたのよ。子供を産めないなら離婚だってさ。ここ数年はずっとプレッシャーをかけられてたけど、いよいよ爆発したみたいね」
「そうか……」
「あなたからお母さんにちゃんと注意してよ。こんなの私は許せないわ」
「母さんはずっと早く孫の顔が見たいと言ってたんだ」
「それは後継ぎが欲しいだけでしょ」
「そうだよ。うちはそういう家柄なんだ。俺は長男として子孫を残す義務がある」
「へえ、義務があるんだ。それについては否定しないけど、子供を産めないから離婚なんてひどいとは思わないの?」
「俺だって子供は欲しいんだよ」
「にしては、全然妊活に協力してくれないじゃない。私は一人でやれることを頑張ってるけど、あなたは何もしてない。それなのに義務があるとか、よく言えるね」
「妊娠できないのはお前のせいだろうが。どうして俺が妊活なんてしないといけないんだ」
「夫婦で協力してやるものでしょ」
「俺の周りの友達はもっと早くに子供を産んでたのに、どうしてお前は妊娠しないんだよ」
「そんなのこっちが聞きたいわよ。私だって子供を早く欲しいと思ってるんだから。そのために産婦人科に通って不妊治療もやってるのよ」
「それでも産めないってことは、お前の体に原因があるってことだろう」
「そんなことないわよ」
「悪いが、俺もお前と結婚生活は続けられない。不妊の役立たずとは離婚だ」
「あなたも、子供が産めないから離婚するっていうこと?」
「そうだ。何の文句もないだろう」
「あるに決まってるでしょ。それに、あんたは自分が離婚を切り出せる立場だって本気で思ってるの?」
「何がだよ」
「昔、私があんたを許したから結婚生活を続けられてるのを忘れたの?」
「まさか、そんなことを言ってるのか?過去を引きずりやがって、虫酸が走る」
「開き直らないで。自分が何をしたか忘れたの?」
「今はそんなことは関係ない。とにかくお前とは離婚だ。今すぐ家から出ていけ」
私はもう何も言えなかった。このふたりには、何を言っても無駄だと悟った。
その日のうちに、私は家を出ることにした。姑が戻ってきて、言った。
「どう?話し合いは進んだの?もしかして荷造りをしている最中かしら?」
「ええ、もう出ていこうと思います」
「本当?認めてくれてよかったわ。私もあなたたちとこれ以上一緒にいたくないと、心から思ってますから」
「そうですか」
「じゃあ、私が帰ってくるまでには出て行ってくれる?実家があるから、家は問題ないわよね」
「そうですね。親にも報告済みです」
「それじゃあ、さようなら」
「後悔しませんか?」
「するわけないでしょ。むしろ、あなたのような出来の悪い嫁を嫁にさせてしまったことを後悔してるの。だからこの離婚は、私たちにとってはハッピーエンドだから」
「分かりました。これでようやく孫と出会えるチャンスができますね」
「黙りなさい。あんたとはもう話すことはないから」
私は大学時代のサークルの先輩で、弁護士をしている常島さんを訪ねた。
「島先輩、お久しぶりです」
「おお、久しぶりだな。確か3年ぶりくらいか。サークルの仲間で飲んで以来だよな」
「ええ、突然すみません」
「いいんだよ。どうかしたのか」
「実は、先輩に弁護のお願いをしたくて」
「なるほど。仕事の相談ってことか」
「知り合いで弁護士をやってる人なんて、島先輩しかいなくて」
「そうか。何でも言ってくれよ。可愛い後輩のためだから、力になるよ」
「ありがとうございます。実は、私、離婚をすることになりまして」
「ああ、そうなのか」
「はい。それで、手続きや夫とのやり取りを先輩にお願いしたいと思ったんです」
「分かった。力になるよ。一応、経緯とか聞いてもいいか?」
「はい。実は3日前に、離婚を義母の方から言われたんですよ。夫じゃなくて。子供を妊娠しなかったら家から出て行けと言われました。夫も義母と同じ気持ちだったらしく、家を追い出されまして」
「ひどい話だな。きっと慰謝料も取れるはずだ」
「正直、もうあの人たちに関わりたくないんです。心の底から夫にも愛想が尽きました。だから慰謝料とか何もいりませんので、とにかく素早く離婚を成立させて欲しいんです」
「それでいいのか?」
「はい。財産分与とか、他にやることがあると思うので。慰謝料のことで揉めるようなら、なしでいいんです。すぐにでもあの人たちと縁を切りたいんですよ」
「そうか。それなら弁護士が入る必要はないな。さっさと離婚届を出してしまえばいいんだよ」
「え、それでいいんですか?すみません、私、こういうのがよく分かってなくて」
「いや、よく相談してくれたよ。もし向こうが何か言ってくるようなら、俺がいろいろと相談に乗るから連絡をしてくれ。もちろん、他にも困ったことがあったら何でもするから」
「ありがとうございます」
「可愛い後輩のためだ。そんなの当然だろ」
こうして、私たちはすぐに離婚した。私はあの人たちから自由になり、新しい人生を歩み始めた。
それから3年後。
「おい、あれはどういうつもりだ?」
スーパーで買い物をしていた私は、元夫の啓介に呼び止められた。
「ねえ、連絡は極力しないでって約束したでしょ。お互いに手続きのことでのみやり取りはするって決めたのに」
「お前がおかしなことをしてるからだろうが」
「私は何もしてないわ。ただ買い物をしていただけよ。まさかあなたたちと再会するなんて思ってもみなかったわ」
「そんなのこっちだって同じだよ。俺はもう新しい家庭を築いてるんだ」
「みたいね。奥さんらしき人もいたし。でも、なんか見覚えがある気がするんだけど」
「そんなことはどうでもいいんだよ。それよりも、お前、どんな手を使ったんだ?」
「私が子供を連れてたことを、すごく驚いてたね。私が自分の子供だと言っても、全然信用してくれなかった」
「当たり前だろ。お前に子供なんて産めるわけがねえんだ」
「じゃあ、あの子は何だって言うの?」
「誘拐でもしてきたんじゃねえだろうな」
「馬鹿馬鹿しい。お前ならやりかねないだろ」
「だったら警察に通報でも何でもしたら?濡れ衣を着せられて困るのはそっちだからね」
「じゃあ、本当にお前の子供なのか?」
「そうよ。どうして、お前が再婚なんてできるんだよ」
「あなたがきっかけになったってこともあるんだけどね」
「どういうことだよ」
「私が再婚した相手は、常島さんだから」
「常島?……あの、離婚の時に担当してくれた弁護士か?」
「そう。覚えてる?とても優しい人で、幸せな日々を送ってるわ」
「じゃあ、連れ子ってことか?」
「違うって言ってるでしょ。私が子供を産めない体っていう思い込みは、もう捨ててよ。あなたが見たのは、昇心照明。私がお腹を痛めて産んだ子よ」
「俺たちは、まだ子供ができてないっていうのに……」
「そんなの知らないわよ。当たり前でしょ」
「いつ生まれたんだ?」
「あなたと離婚してから、2年後くらいだったと思うわ」
「本当に、そいつとの子か?」
「もうそれ以上聞きたくもないわ。お願いだから、バカなことを考えないで」
「ちゃんとDNA検査をしてみようぜ。俺の子供っていう可能性もあるかもしれないし」
「バカ言わないで。2年も後の話だって言ってるでしょ」
「いや、調べるだけだ。検査代も俺が出すからさ」
「そういう問題じゃないから。気持ち悪い」
「おかしいんだよ。こんなに子供ができないわけがないんだ」
「だからって、私たちには全く関係ない話だわ」
「母さんがどんどんイライラしてて困ってるんだ」
「だから何?まさか譲れとか言うわけじゃないでしょうね」
「まだ赤ん坊だし、俺たちが育てても大丈夫じゃないか」
「呆れた。もう本当に関わりたくないわ。次に変なことをしてきたら、本当に警察に通報するからね」
「1回検査だけでもやってみてくれよ」
「しつこい」
その1時間後、今度は常島さんが啓介のところを訪ねた。
「お久しぶりです。木ノ下さん」
「何の用だ?あんたと話すことはない」
「こちらにはあるんですよ。今日、うちの妻とお会いしたようですね。そして、何やらおかしなことをおっしゃってたとか」
「で?あんただって、自分の子供かどうかはっきりしたいだろ。そういう機会を与えてるんだよ」
「申し訳ありませんが、そんなものは必要ありませんよ。昇心照明は私たちの子供です。疑う余地は一切ありませんから」
「客に手を出すような奴が、偉そうなことを言うんじゃない」
「確かに、あまり褒められたことじゃないですよね。ですが、私と祥子は大学時代からの知り合いなんです。弁護士になる前から仲は良かったので、完全にお客さんに手を出したというのは違いますよ。相談されたのをきっかけに、俺たちの距離が縮まっただけです。そして今、私は祥子と息子の3人で幸せに暮らしています。だからどうか、邪魔だけはしないでもらえませんか?」
「俺から弁護士に乗り換えるなんて、あいつは本当に金が好きなやつだ。うちに嫁いできたのも、仕事をしなくても生活が保証されるからだよ。あいつはそういうやつだ」
「祥子のことを悪く言うのはやめてもらっていいですか?そもそもは、あなたたちが『仕事をやめて専業主婦になれ』と言ってたんじゃないですか」
「そんな話まで聞いてたのか」
「祥子は結婚した当初、自分も働くと言ってましたから。本当は仕事を続けたかったけど、家族で話し合った結果、やめたんだってね」
「本来なら、子育てをしてもらう必要があったからな」
「祥子が悪く言われるのは、我慢できません。俺はただDNA検査をしようと言ってるだけだ」
「何度も言わせないでください。私たちが再婚したのは、あなたと離婚して1年近く経ってからです。そして子供が生まれたのは、それから1年後だ。どう考えても、あなたの息子ではないですよ」
「どうして、俺の時には子供ができなかったんだよ……」
「子供は授かり物だから、仕方ないでしょう。それに、祥子はあなたの分まで妊活を頑張っていました。なのにあなたは努力もせずに、全てを祥子のせいにして家から追い出した。私が子供なら、そんな人間の子供になるなんて嫌ですよ。もしかしたら、あなたの人間性を見て、子供が拒否したのかもしれませんね」
「そんな非科学的なことを言うな」
「あなたがDNA検査を求めてるのも、同じくらいおかしなことなんですよ。子供がそんなに欲しければ、妊活を頑張ったらどうですか?お願いですから、私たちに付きまとわないでください」
「分かったよ。誰も本気で言ってないって」
やっと、啓介は引き下がった。
それから1ヶ月後。
「啓介、ちょっと話があるの」
私は、あの時と同じように、啓介を呼び出した。
「なんだよ。そっちが関わるなとか言ってきたくせに」
「仕方ない事情があるのよ」
「なんだよ」
「あなたに慰謝料を請求しようと思ってる」
「慰謝料?」
「そうよ。離婚の原因があなたにあったからね」
「おい、何をバカなことを言ってるんだ。俺たちはもう離婚して3年も経ってるんだぞ。それなのに今更慰謝料だと?だったら離婚する時に言えばよかっただろう。なぜ今更来るんだよ。俺に金をせびりたいのか?」
「そんなわけないでしょ。どんな思考してるのよ」
「じゃあ、どういうつもりか説明しろよ」
「あなたと再婚した時に、奥さんがいたでしょ。あの人が誰だか、思い出したのよ」
「お前の知らない人だ」
「そうね。直接会ったことはないわ。でも、画像で見たことがあるわ。楽しそうにあなたとツーショットで映ってる写真を見たことがあったからね」
「あんなこと、まだ覚えてたのか?」
「そうね。強烈に記憶に残ってた。正直、忘れたいくらいの嫌な記憶よ。あんたがマッチングアプリで知り合った女と浮気をしていた記憶だからね」
「それが何なんだよ。昔のことだろ?」
「そうよ。あんたが謝ってきて、私が許して終わっていたはずだった。でも、あんたはその女と再婚をしていた。そうなると、あの時、関係は終わってなかったんじゃないかって考えたのよ」
「何を馬鹿な……」
「言っておくけど、言い逃れは無理よ。こっちはあんたたちが不倫関係だっていう証拠を掴んでるんだから」
「なんだと?」
「高彦の知り合いで、探偵をしてる人がいてね。その人の調査をお願いしたの。そうしたら、バンバン証拠が出てきたわ。あんたの奥さん、口が軽いから気をつけた方がいいわよ。友達や会社の同僚たちに、不倫の末に結婚したことを自慢げに話してるらしいからね」
「あいつが、そんなことを言ってたのか……」
「そう。それじゃあ、慰謝料を請求するから」
「待てよ。離婚して3年も経ってるのに、できるのかよ」
「馬鹿にしないで。うちの夫は弁護士なのよ。そこら辺はちゃんとクリアしてるわ。不貞の事実を知った時から3年で時効になるみたい。私はまだ知って1ヶ月も経ってないから、余裕を持って訴えることができるってわけ」
「そんな……」
「じゃあ、しっかりと支払いをお願いね」
「ちょっと待ってくれよ。今、ちょっと金が……」
「何を言ってるの?」
「実は、再婚した時に式をあげたんだよ。盛大にやりたいって言ったから。それで、別にご祝儀とかもらってるから、それでなんとかなるんじゃないの?私の時もそうしてたじゃないか」
「再婚だから、あんまりみんな包んでくれなかったんだよ……」
「ふーん、そうなんだ。確かに再婚でご祝儀って、あんまり包みたくはないかもね」
「分かってくれるか?」
「ええ、とても興味深い話だったわ。でも、慰謝料は請求させてもらう。あんたの懐事情なんて、こっちには関係ないの」
「なんでだよ。酷すぎるって」
「よくそんなこと言えるわね。自分が何をしたか分かってないの?まあいいわ。これ以上話すことなんてないしね。やり取りはまた別の弁護士さんにお願いするわ。ここに連絡しても無駄だからね。あんたのことはブロックさせてもらうから」
翌日、今度は姑から電話がかかってきた。
「あんた、何てことをしてくれたのよ!」
「そっか。お母さんもブロックしないといけなかったんですね」
「そんなことはどうでもいいのよ!あんたのせいで、こっちは大変なんだから!」
「何がですか?」
「あんたが慰謝料を請求したせいで、経済的に大打撃を受けてるのよ!」
「それはそちらの責任ですよ。不倫なんてするから、こんなことになるんです」
「あんたが全然子供を産まないから、啓介は他で作ろうとしてただけでしょ!それの何が悪いの?」
「やっぱり、お母さんは不倫を把握してたんですね」
「だったら何よ?」
「いえ、もう何も言うことはありません。お願いですから、文句なんて言わずに慰謝料を払ってください。それだけしてくれたら、もうこちらから関わることはしませんから」
「そもそも慰謝料請求をなしにしなさいよ!こっちはあんたの生活をどれだけ面倒見たと思ってるの?その分のお金も返さないくせに、何が慰謝料よ!」
「一緒に住んでる時は家族だったんです。お金なんて請求できるわけがないでしょ。そんなに返してもらいたいなら、私と同じように弁護士にお願いしたらどうですか?全く相手にもされないと思いますけど」
「こっちはこれから子供を育てるために貯金が必要なのよ!」
「その前に、啓介は検査を受けた方がいいですよ」
「検査?」
「不妊かどうかを調べた方がいいと言ってるんです。私たちは7年かけても子供を作れませんでした。ですけど、私に何か問題があったわけじゃない。そして、どうやら啓介は長い間不倫をしていたようです。おそらくそっちで子供ができたら、私のことを捨てるつもりだったんでしょう。でも、そっちでも子供を作ることができなかった」
「何が言いたいのよ」
「もしかしたら、啓介は子供を作れない体なのかもしれません」
「嘘よ!そんなわけないわ!」
「あくまで可能性ってだけです。ただ、こんなに子供ができないのは、何かしら原因があるかもしれませんから。もしそうだとしたら、うちの家系は途絶えてしまうってことなの?」
「うん。そうなるかもしれませんね」
「ふざけないで!こうなったのはあんたのせいよ!あんたがうちに来てから、全部がおかしくなったの!子供もできなくて、お金もなくなった。全部あんたが悪い!あんたは疫病神よ!」
「勝手なことを言わないでもらえますか?私は別に何もしてないですよ。それに、私たちは子供ができない以外は、全てうまくいってたはずです。今あなたたちが置かれている状況は、全てあなたたちが原因のものです。もし私が疫病神だったとしたら、家から追い出した時点で幸せになってないとおかしいでしょう」
「それは……そうかもしれないけど……」
「子孫を残したいという気持ちは否定しません。だからって、子供が産めない人間を排除するなんて、どうかと思いますよ。私はただ、血筋を絶やさないようにやってただけで……。だとしても、やり方ってものがあるんです。私は、私のことを『血管品』呼ばわりしてましたけど。一番の血管品は、お母さんの考え方です。その考えを変えない限り、幸せにはなれませんよ。まあ、もうそんなことを言っても手遅れみたいですけど」
その後、姑は啓介を無理やり病院に連れて行った。結果、啓介の体に原因があると判明した。不妊は、私のせいではなかったのだ。
そして、啓介は不倫相手だった再婚相手からも捨てられた。相手の女性も、子供ができないというのは無理だったらしい。さらには、姑からも「血管品」と呼ばれて家を追い出されたそうだ。
親と妻、ふたりから一気に縁を切られ、今は寂しく一人で生活をしていると聞いている。ちなみに姑は、啓介を追い出してからは、血を絶やしてしまったことへの喪失感から抜け殻のようになってしまったようだ。今は一日中家で、子供が遊んでいる動画を流し続けているとのこと。
そんなことをしても何も変わらないのだから、切り替えて現実に目を向けた方がいいと思いますけどね。
一方の私は、高彦と息子と3人で幸せに生活している。慣れない子育てだが、高彦と協力してなんとかやっている。もし子供が成長して手が離れたら、仕事をしようと思っている。何をするか考えた時、私は法律の勉強を始めようと決めた。
すぐに何かになれるわけではない。それでも、いつか自分のように困っている人を支えられる人になりたい。それが、今の私の目標です。



