「ねえ、私、本当は結婚式をあげたかったの」
誠のその言葉に、とやは驚いた。キャンセルを決めたのは母の強い主張だったからだ。でも誠がそこまで望んでいたなんて、全然知らなかった。
「なあ、母さん。誠に嘘をついてたのか?」
「何言ってるの。私はあなたのためを思って言ってるだけよ」
とやは混乱した。育ててくれた母と、1年ちょっとしか過ごしていない誠。どちらを信じればいいのかわからない。
「もちろん母さんだよ」
「そうでしょ。誠さんは私に嫉妬して嘘をついてるのよ」
その言葉に、とやは頷くしかなかった。でも、心のどこかで引っかかるものがあった。
姉に相談すると、意外な返事が返ってきた。
「あんたね、誠さんを信じられないなら別れなさいよ」
「姉ちゃんはなんでそんなに強いんだよ」
「私、昔、婚約者に一方的に別れを告げられたの。お母さんが嘘をついて、私のことを悪く言ったから」
姉の話を聞いて、とやははっとした。母は昔から、人の人生を壊すような嘘をつくことがあるらしい。
「誠さんには同じ思いはさせないから」
姉はそう言い残して、母と絶縁した。
とやは誠に会いに行こうと決めた。でも、その前に母がまたひと芝居打っていた。
「誠さん、浮気してるわよ。鈴木さんが見たって言ってたわ」
「写真もあるんだろ?」
「もちろんあるわ」
翌日、とやは誠に詰め寄った。
「お前、浮気してるんだってな」
「は? してないよ。それ、従兄弟のいこと買い物行っただけ。誕生日プレゼントの下見だったんだ」
「じゃあなんで内緒にしてたんだよ」
「サプライズしたかったからに決まってるでしょ!」
とやはまた母の嘘を信じてしまった。誠は怒り、弁護士に相談した結果、慰謝料250万円を請求すると言い出した。
「お前、大人としての自覚あるのか? いつまで母さんの言いなりなんだよ」
「そんなことない!」
「私は子供のとやとは付き合えない。別れよう」
誠はそう言って、去っていった。とやは立ち尽くすだけだった。
その後、誠が母のところへ直接行き、はっきりと言った。
「お母さんの嘘で、どれだけ人が傷ついたか分かってますか? 私はあなたを訴えます」
母は激怒したが、誠は引かなかった。親戚中に広まった嘘、電話でのなりすまし、すべてが明るみに出た。
「私だってかわいそうな女なのよ」
「可哀そうだからって、人を不幸にしていい権利はありません」
誠の言葉に、母は何も言えなくなった。
その後、とやは真実を知った。母がすべての嘘をついていたことを。でも、もう誰も信じられなくなっていた。精神的に不安定になったとやは、仕事もできなくなり、部屋に引きこもってしまった。
母は離婚され、パートもクビになり、借金に追われる毎日。誠は絶縁した姉と一緒に、ようやく本当の結婚式をあげることができた。
「これからは、好きなことをして過ごそうね」
誠の笑顔に、姉は深く頷いた。



