「お前の旦那には大量の仕事を押し付けてきた。おかげでり介は毎晩残業してるみたいだよ」——そう言って笑ったのは、私の上司であり、家族ぐるみで付き合っていた相手。彼は私の妻とハワイで浮気していた。2年間、私たちはテーブルの下で足を絡め合いながら、私と妻を馬鹿にし続けていた。妻は「女子旅」と偽って大阪に行ったと言い、上司は「沖縄出張」と偽ってハワイへ。でも、彼らは知らなかった。私が探偵を雇い、LI…

「お前の旦那には大量の仕事を押し付けてきた。おかげでり介は毎晩残業してるみたいだよ」——そう言って笑ったのは、私の上司であり、家族ぐるみで付き合っていた相手。彼は私の妻とハワイで浮気していた。2年間、私たちはテーブルの下で足を絡め合いながら、私と妻を馬鹿にし続けていた。妻は「女子旅」と偽って大阪に行ったと言い、上司は「沖縄出張」と偽ってハワイへ。でも、彼らは知らなかった。私が探偵を雇い、LI...

「ねえ、なんで家族ぐるみの付き合いなんて始めたの?お互い知り合いだなんてリスク高すぎない?」

「バカだな。逆だよ。近すぎると疑わないもんだよ。灯台下暗しってやつ。」

私は部下の妻とハワイで浮気していた。彼女は私の言うことを何でも聞く、可愛い女だった。彼女の夫には大量の仕事を押し付け、毎晩残業させていた。そうすれば私たちが会う時間を確保できるからだ。

「お前の旦那には大量の仕事を押し付けてきた。おかげでり介は毎晩残業してるみたいだよ。」

「そのおかげで残業代も増えて助かってるけど、まさか上司に嫁を寝取られてるなんて思いもしないだろうけどな。」

彼女は笑った。私も笑った。私たちは完璧だと思っていた。2年間も気づかれずに。

「あの人何も考えてないよね。今回だって呑気に女子旅楽しんできてねって言ってたわ。」

「本当におめでたいやつだよな。あいつも。おかげでこっちはやりたい放題だけどさ。」

「でも可愛いんだぜ。俺の言うことなら犬みたいに何でも聞いてくれるし。」

「私にとっては文句も言わない最高のATM君。」

「俺よりひどいこと言ってないか?みささんは大丈夫なの?疑ってない?」

「全然。『頑張ってね』って送り出してくれたよ。」

私たちは4人で食事をするときも、テーブルの下で足を絡め合っていた。それでも彼らは気づかない。

「あの時のみささんの嬉しそうな顔やばいよね。思い出すだけで笑っちゃう。」

「俺のこと言えないくらい悪だな。2年も気づかないなんて。うちらプロすぎ。」

「俺の完璧なスケジューリングのおかげな。」

「早く達さんを独り占めしたい。」

「そのうちな。時期を待つんだ。」

「もうずっとそればっかり。」

買い物を終えて、そろそろ飯でも行こうかと言ったとき、彼女が聞いてきた。

「そういえばハワイでカード使ったりして、迷彩とかでバレたりしないの?」

「あいつが見るわけないじゃん。俺のこと信じてるんだからさ。」

「本当、主婦になるためだけに生まれてきた人って感じで気の毒。」

「お前の旦那も俺のコマになるために生まれてきたって感じで気の毒だよ。」

私たちは笑い合った。早く戻っておいで、と彼女は言った。

翌日、みささんから突然電話がかかってきた。

「すみません、り介です。」

「久しぶりね。どうしたの?こんな時間に。」

「どうしても伝えなければいけないことがありまして。」

「まさか達也に何かあった?」

「いえ、課長は無事です。多分。」

「何、言いづらいこと?」

「みささんは今、課長がどこにいるか知ってますか?」

「達也なら今沖縄に出張中だよ。若手向けの研修の講師を頼まれたって言ってたけど。」

「課長は今ハワイにいます。」

「ちょっと冗談にしては意味不明すぎ。さっきも『沖縄は暑い』ってLINEが来てたし。」

「それ全部嘘です。」

「どうして分かるの?」

「僕の妻も一緒にハワイにいるからです。」

「そんなはずないよ。だってゆうなちゃんが『女子旅で大阪に旅行中』ってインスタにアップしてたの見たし。」

「あの写真は以前の旅行の使い回しです。2人は今間違いなくハワイにいます。」

「私たち家族ぐるみで付き合ってるのに、こっそり2人で行くなんてありえないって。だからショックだし許せないんです。」

「り介君、本気で言ってるの?」

「こんな嘘をつくメリットが僕にありますか?」

「そんな証拠はあるの?」

「空港で一緒にいるところが撮れています。ハワイにも探偵事務所の提携先があるので、今も尾行を継続してもらっています。」

「そんなことが可能なのね。」

「はい。り介君はいつ2人の関係に気づいたの?」

「1ヶ月くらい前です。ユナの様子がおかしかったので。」

「どんな風に?」

「僕は課長に期待されてるんだと思って、振られた仕事を全力で頑張っていました。でも違った。ある日早めに残業を終えて家に帰ると、家にいるはずの妻がいなかったんです。」

「出かけてただけとか、1度だけならそう思ったかもしれません。でもその後も何度か抜き打ちで帰ったりしたんですが、いつもいなかったんですよ。」

「それはちょっと出かけすぎかもね。夜中でしょ。」

「課長は普段はどうなんですか?」

「あの人はいつも遅いわよ。接待とか出張とか忙しい人だと思ってたけど、どうやら違ったみたいね。」

「それで探偵に依頼してみたら真っ黒だったってわけです。」

「信じられない。僕だって課長を尊敬してました。仕事の悩みも人生の相談も全部あの人に相談して、兄のように思っていたんです。」

「私もよ。4人で過ごす時間は楽しかった。」

「でも全部僕らの思い込みだったんです。課長が僕に『お前を一人前にしたい』と言って毎日深夜まで残業を押し付けていたのは、僕の妻と会うためだったんですよ。」

「ありえない。」

「夏にバーベキューしたことを覚えてますか?途中氷がなくなって、じゃんけんで2人が買い出しに行こうぜって課長が提案しましたよね。私とり介君が負けたわね。」

「今思えばあの2人はずっと同じ手を出してました。」

「確かに勝っても負けても一緒にいられるわね。スリルを楽しんでたんです。許せない。」

「ユナが寝てる間にあの2人のLINEのトーク履歴を全てバックアップしました。見ますか?」

「うん、見たい。」

吐き気が止まらない。

「大丈夫ですか?り介君、1人に背負わせない。私も戦うわ。」

「みささん、あの2人を地獄の底まで叩き落としたい。」

「僕もです。帰国は24日の夜です。その前に全ての証拠をメールするので見ておいてください。」

「分かった。」

「弁護士にも相談しています。」

「そこまで準備してたのね。1人で辛かったでしょう。」

「いえ、僕は大丈夫です。今は怒りの方が強いので。それよりみささんに辛い思いをさせてすみません。知らなければ幸せでいられたのに。」

「いいえ。教えてくれてありがとう。どんなに辛い現実でも、嘘は嫌なの。」

「僕もです。作戦の詳細は追って共有します。最高の出迎えをしてあげましょう。」

3日後。達也は沖縄に出張中だと信じているみささんに電話をかけた。

「沖縄楽しめてる?」

「楽しめてるわけないだろう。仕事だぞ。会議とホテルの往復だけで1日が終わる。こっちはずっと雨だし、湿気がすごくて参るよ。」

「あら、それは最悪ね。お昼は何を食べたの?」

「沖縄そばだよ。ソーキそばっていうのか。有名店らしくて、行列に並んで食べたよ。」

「ええ、なんてお店?今度一緒に行く時の参考にしたいな。」

「なんだっけ?名前忘れた。適当に選んだから。」

「そっか。泊まってるホテルはオーシャンビュー?」

「いや、国際通り近くのビジネスホテルだから、窓の外はビルばっかりで全然沖縄感ない。」

「でも変ね。さっき那覇のライブカメラ見たけど、空は真っ青ですごくいい天気だったよ。」

「え、予報では雨だったけど晴れに変わったみたいだね。」

「あ、ああ、それは多分北の方だろう。沖縄は広いからな。場所によって天気が違うんだ。」

「そうなんだ。でも晴れてよかったね。」

「ああ、お土産買って帰るから楽しみにしてて。お菓子とかでいいよな。」

「国際通りにあるベニーのバームクーヘンがいい。通販もやってないから現地じゃないと買えないの。」

「はあ。何それ?ベニーモタルでいいだろう。あれはいつももらうから飽きちゃったよ。」

「分かった。バームクーヘンね。仕事の合間に時間が作れたら行ってみるよ。そんなに遠くないと思うからお願いね。」

「なんか変だな。今までそんなリクエストしたことないのに。どう?何か疑ってる?」

「疑われるようなことでもしてるの?」

「するわけないだろ。でも気分悪い。」

「仮にしてたとしても沖縄ならバレないよね。」

「はあ。仕事の出張なのに浮気疑うんじゃねえよ。」

「そんなに怒らないでよ。今度疑ったら離婚だぞ。出張中反省しやがれ。」

「ごめんごめん。たくましく留守番してろ。」

「はい。そういえば最近り介君たち遊びに来ないね。」

「あいつ最近仕事の効率が悪くてさ、俺が厳しく指導してやってるんだよ。今も会社で俺の代わりに資料を作ってるはずだ。」

「り介君、頑張りすぎて倒れないかしら。」

「大丈夫。あいつは体力だけはあるから。課長のためならって喜んでやってるよ。」

「それはゆうなちゃんも寂しがってるでしょうね。」

「若いうちは家庭は二の次ってことだ。」

「り介君本当にかわいそう。」

「はあ。なんでお前が同情するんだよ。」

「結婚してまだ2年くらいでしょ。子供だって欲しいでしょうに。」

「俺らみたいに子供がいなくても幸せなパターンだってあるだろう。」

「そうだね。で、いつ帰ってくるんだっけ?」

「24日だよ。」

「そっか。帰宅楽しみにしてるね。あ、ごめん。帰宅と帰国間違えちゃった。沖縄は日本だぞ。」

「だよね。ごめん、ごめん。お土産楽しみにしてる。」

「ああ、仕事の電話が来た。り介からだ。またな。」

「り介君によろしく。」

数分後、今度はゆうなに電話をかけた。

「大阪は楽しんでる?」

「うん。最高だよ。粉物ばっかで太りそう。」

「天気見てたけど、大阪雨みたいだな。」

「そうなの?本当嫌になっちゃう。」

「ああ、ごめん。晴れだった。雨なのは四国の方だったわ。」

「まあ、天気とか関係ないかな。楽しければオッケー。」

「写真送ってよ。ユナの楽しそうな顔が見たい。」

「今友達と一緒だからまた後で。」

「そっか。残念。」

「どうしたの?何かあった?」

「り介が旅行中に連絡してくるとか珍しいよね。俺、会社辞めようと思っててさ。」

「え?なんで?」

「どうやら俺の働き方って労働基準法違反らしい。」

「いや、そんなことなくない?残業くらい誰だってすると思うし。」

「残業してることを会社に知らせてないんだよ。知ってるのは課長だけ。」

「そうだったんだ。でもきっとり介に目をかけてくれてるから、そうやって特別に指導してくれてるんじゃないかな。」

「やけに課長の方を持つんだな。」

「いやいや、そういうんじゃないよ。ただ家族ぐるみでお世話になってるし。私にはそういう風に見えないかなってだけで。」

「そっか。それに辞めちゃったら4人のご飯会とかなくなるのも寂しいかなって。」

「じゃあユナは俺に過労で倒れるまで働けって言いたいってこと?」

「違うよ。なんでそうなるの?」

「俺がされていることはパワハラなんだよ。」

「それはちょっと大げさじゃない?」

「弁護士に相談して訴えるかもしれない。」

「え、ちょっと待ってよ。なんでユナが焦るわけ?」

「冷静になった方がいいって言ってんの。後で後悔するかもしれないよ。」

「なんで?」

「人間関係全部壊すことになるから。」

「別に構わない。」

「り介、疲れてるんだよ。少し休んだら。」

「振られた仕事が多すぎて休めないんだよ。」

「だよね。無理だけはしないでね。」

数分後、みささんから連絡が来た。

「今、ゆうなと話しました。どうだった?」

「案の定、嘘の上塗りのオンパレードです。天気のトラップに引っかかりましたよ。」

「うちも同じ。本当2人して浮かれすぎですね。」

「無理。那覇のお土産をリクエストしておいたわ。東京の沖縄物産館には置いてないものよ。」

「さすがです。僕も仕事を辞めるかもしれないことと課長を訴えることを匂わせておきました。」

「これで純粋にハワイを楽しめなくなったわね。」

「はい。今頃ドキドキしてると思います。あんなに私たちを馬鹿にしたんだもの。このくらいで済むと思わないでほしい。」

「みささん、荷物の整理は順調ですか?」

「ええ、昨日のうちにほとんど実家に運び出したわ。大型の家具も家電も私が揃えたものは全部。今はペンペン草も生えないほど空っぽよ。」

「徹底してますね。課長帰ってきたら腰を抜かすでしょう。」

「そうね。それ以上のショックをしっかりと味わわせてあげるわ。証拠はすでに弁護士に預けた。私もハワイでのカードの使用履歴をメールしておいた。」

「それと課長のPCから抜いた裏帳簿のコピーも。会社の経費を私的に使ってたなんて。」

「いくら課長とはいえ2名分の旅を出すのはかなり無理があると思って調べたらビンゴでした。うちの貯金には手をつけてないから、お金の出所はどこだろうと疑ったのが良かったわ。」

「はい。不倫だけなら家庭の問題ですが、会社の金を使ったとなれば犯罪です。懲戒免職は免がれないわね。」

「課長のご両親には連絡しましたか?」

「うん。さっきお母さんと話したわ。大丈夫でした。最初は信じられないって言ってたけど、探偵の動画とホテルの領収書を見せたら、最後は申し訳ないって泣き崩れてた。」

「ユナの両親にも報告済みです。帰国までは黙っててもらうようお願いしてあります。」

「どちらの実家も味方にはならないでしょう。」

「ええ、弁護士さんからも言われた通りね。外堀を埋めるのが1番の近道だって。」

「まさにその通りですね。会社への報告はり介君お願いね。」

「任せてください。決戦は24日の夜20時。課長が帰宅し、ユナがマンションに着く頃。同時に爆弾を落としましょう。」

「わかった。みささん、無理はしないでくださいね。何かあったらすぐに駆けつけますから。」

「大丈夫よ。私はもうあの人の妻じゃない。ただの執行人だと思ってるから。」

「頼もしいです。じゃあまた当日に。」

帰国当日。達也が家に帰ると、家の中が空っぽだった。

「おい、なんだこれ?みさ、どこにいるんだ?」

「何?どうしたの?」

「家の中が空っぽじゃないか。泥棒でも入ったのか。警察呼ぶぞ。」

「出張でお疲れでしょう。ゆっくりくつろいだら。」

「そうしようにもテレビもソファーもないじゃねえか。お前の服も一着もないぞ。どういうことだ?」

「全部私が持って出たからに決まってるじゃない。」

「ふざけるな。勝手に何してんだよ。早く帰ってきて元に戻せ。今すぐにだ。」

「戻せないわね。あなたが壊した私たちの関係と同じでもう無理よ。」

「はあ。何を言ってんだ?意味わかんねえよ。いいから早く戻ってきて説明しろ。」

「そうね。まずはそっちの説明を聞きたいわ。沖縄はどうだった?」

「どうもこうもない。仕事だ。」

「お土産のバームクーヘン買ってきてくれた?」

「売り切れだったんだ。」

「そんなはずないわ。電話して在庫があるのは確認済みなのに。」

「は、もしかして、お願いするお土産間違えたかしら?ハワイだからマカダミアチョコだったかな?」

「は?」

「ハワイ楽しかった?ゆうなちゃんと一緒に行くんだったら、私とり介君も誘ってくれたらよかったのに。」

「いや、何の証拠があってそんなこと?」

「手をつないでショッピングしてる写真も、プールで抱き合ってる写真もあるけど、見る?」

「お前、探偵でもやっとったのか?」

「え?り介君がね、ハワイにも提携してる探偵事務所があるそうよ。それだけ浮気旅行が多いってことなのね。」

「なんでり介君は1ヶ月も前からあなたたちのゲスな遊びを見て見ぬふりして耐えていたの。その状態で普通の生活を送ることがどれだけの苦痛だったか分かる?」

「待て、みさ。これは違うんだ。魔が差しただけなんだ。」

「魔が差してハワイに行くのはやりすぎなんじゃない?ユナが誘ってきたんだよ。それで仕方なく。」

「そうだ。後輩の奥さんと仕方なかったんだよ。り介は今頑張らないといけない時期だ。それでユナに寂しいって泣きつかれて仕方なく。」

「『り介を社畜にしてユナを抱くのが最高』。これ、あなたがゆうなちゃんに送ったLINEだけど、仕方なくって感じには見えないわね。」

「送ってない。」

「あなたが教育だと言ってり介君を潰してた間、彼の大切な奥さんと寝ていた。それを魔が差したで済むと思ってる?」

「みさ、頼む。話を聞いてくれ。俺にはお前が必要なんだ。」

「どの口がそんなこと言えるの?去年の秋、私の母が亡くなった夜のこと覚えてる?あの時は確か仕事が忙しくて。」

「そう。プロジェクトが佳境だと言って、通夜にもお葬式にも来なかったわよね。」

「それは本当に抜けられない仕事が。」

「嘘はやめて。あの夜あなたはり介君に仕事を押し付け、ユナと箱根の温泉に泊まってたことはLINEの履歴から判明してるの。あれは私が母を失って1人で泣いてた夜に、あんたは部下の女と一緒にいた。しかもその部下に激務を押し付けて。こんなにゲスで見苦しい人間を私は生涯許さない。」

「悪かった。」

「安っぽい謝罪はいらない。弁護士には証拠を全て送ったわ。直接話せばいいだろう。もう私たち夫婦だけの話じゃないの。会社にも報告が行くから覚悟することね。」

「は、会社は関係ないだろう。プライベートの話だぞ。」

「ハワイ旅行の費用名目での横領。部下への残業強要、時間外労働の隠蔽。アウトね。」

「待て。会社だけは勘弁してくれ。首になるぞ。」

「首だけで済めばいいけど。下手したら逮捕。それから横領した分の返還もあるわ。そうなれば困るのはお前だぞ。」

「全然大丈夫。後輩の人生と妻の人生を欺いた代償を地獄で払って。」

同時刻、ゆうながマンションに帰ってきた。

「ねえ、り介、鍵が開かないんだけど。」

「家に着いた。」

「うん。中にいるなら開けてよ。疲れてるの?」

「大阪楽しかったか?」

「中で話すから早くして。」

「まあ、そりゃ疲れるよな。ハワイに1週間もいれば。」

「え?」

「そのマンションは売ることにした。鍵は変えてあるから入れない。」

「ちょっと待って。なんでこんなことするの?私の荷物はどうしたのよ。」

「お前の実家に送ってある。『は?迷惑だから庭に野ざらしの状態で置いておく』ってお母さんが言ってたぞ。そういえば昨日の東京は大雨だった。」

「お願い、説明して。」

「自分が1番分かってるだろう。誰とどこで何をしてきたか。」

「全部知ってるってこと?証拠はあるの?」

「それを聞いてどうするんだよ。証拠のあるなしで出方が変わるのか?」

「違うけど。」

「これが最後の質問だ。誰とどこにいた?」

「友達と新。」

「もういい。あとは弁護士を当てろ。」

「待って。ちゃんと言う。達也さんとハワイに行きました。」

「だよな。最初から分かってた。」

「なんでそんなに怒るの?」

「は?これで怒らない旦那がいると思うか?」

「だってしょうがないじゃん。私はり介の出世のためにあいつの相手をしてたんだよ。」

「へえ。それは悪かったな。その割にはアホみたいに仕事を押し付けられて過労で倒れる寸前だったけど。」

「り介に期待してるんだよ、きっと。」

「違うだろ。お前らの会う時間を作るために俺を会社に閉じ込めてただけだろうが。」

「違うって。」

「俺はお前らのホテル代や旅行代を稼ぐために毎日毎日真夜中まで働いてたんだな。」

「お金ならなんとかして返すから。」

「ああ、返してもらうよ。慰謝料500万だ。」

「は、無理だよ。そんなに払えるわけないじゃん。」

「だったら協議離婚不成立だ。裁判する。」

「そこまでしなくてよくない?」

「全て公開されるから覚悟しろ。」

「嫌なんだけど。」

「弁護士にたくさん友達呼んでおけ。」

数分後、達也から電話がかかってきた。

「り介、話し合いは分かると思うんだ。俺が悪かった。一旦会社への報告は待ってくれないか?」

「待つメリットあります?」

「俺が必ずお前を上に引き上げてやる。」

「冗談きついですよ。俺より下に行っちゃう人がどうやって?」

「頼むよ。いい感じでここまで来たんだ。あとちょっとで部長の椅子も見えてる。その時はお前が課長だ。約束する。」

「課長、まだ自分は助かると思ってます。あ、だとしたら甘いですね。課長が教えてくれたんじゃないですか。『ちんたらしてたら同期に置いていかれるぞ』って。」

「お前、何をする気だ?」

「教えの通り、スピードを重視して、先ほど会社のコンプライアンス部と社長室に証拠のメールを送信しました。」

「嘘だろ?」

「横領と不倫のダブルパンチです。部長の椅子どころか、平社員でもいられなくなりますね。」

「お前、そんなことしたら俺は終わるぞ。」

「願ったり叶ったりです。」

「俺はお前を可愛がってきたよな。」

「ただの駒としてですよね。」

「違うんだ。信じてくれ。」

「一瞬でも僕のことを思って厳しくしてくれてるいい上司だと思ったことを後悔しています。」

「そんなことないって。本当にお前のためを思ってた。」

「私の誠心誠意を踏みにじった代償をその身でしっかりと受け止めてください。」

数分後、ゆうなが達也に電話をかけた。

「達也さん、どうにかしてよ。全部バレてんじゃん。」

「うるせえ。俺だって今それどころじゃない。みさが家中の家具を持って消えたんだ。それにり介が会社に全部ばらしたんだぞ。」

「そんなの私の知ったことじゃないわよ。あなたが絶対バレないって言ったから信じて付き合ってあげたのに。マジで最悪なんだけど。」

「あっちはお前のLINEの履歴を入手してんだ。管理が甘いのは自分の方だろう。」

「私のせいにするの?最低。あんたがり介を社畜にしたせいでよからぬ疑いを抱かせたんでしょ。」

「黙れ。元を辿ればお前が色目を使ってきたんだろ。『り介は気真面目すぎてつまらない』そう言って俺にすり寄ってきたのは自分じゃねえか。」

「嘘言わないでよ。後輩の嫁なら断らないと思って、立場を利用して近づいてきたのはそっちじゃない。」

「ふざけるな。贅沢させてもらって今更それか。旅行やプレゼントでいくら使ったと思ってるんだ。」

「は?そっちが勝手にやったことでしょ?小っさい男。」

「お前みたいな欲深い女、もう顔も見たくない。」

「横領してまで旅行に連れて行けなんて言った覚えありません。」

「お前は共犯者なんだよ。道連れにしてやるからな。」

「ふざけないで。勝手に1人で捕まってよ。」

「お前みたいなカスに時間と金を使ったなんて。」

「こっちのセリフ。ただのおっさんのくせに、私と遊べただけでも良かったと思いなさい。」

「黙れ。」

数分後、ゆうながり介に電話をかけた。

「ねえ、り介、お願いだから許して。私、目が覚めた。あんなおっさん全然好きじゃない。」

「だからこれからも一緒にいよう。」

「無理だな。」

「どうして?うちら仲良しだったじゃん。」

「だから苦しいんだよ。俺の頭の中にはまだユナの笑顔がこびりついてる。『いつかハワイに行きたいな』ってそう言ったから、仕事を頑張ってお金を貯めて連れてってあげたいと思って頑張ってたのに、あっさり他の男と行っちゃうんだもんな。」

「全然楽しくなかったよ。やっぱりり介と行きたいって改めて思った。」

「残業ばかりで一緒の時間が取れないから夫婦の間に溝ができたと最初は思ったよ。でも意図的に俺の時間は奪われてた。それがどうしても許せない。」

「ごめんね。もう2度としないから。」

「ユナが毎回ハンバーグを焦がして泣いてた頃が1番幸せだったかもしれないな。」

「これからだって幸せになれるよ。」

「悪いけど、全く好きじゃないんだ。は、秒で覚めた。」

「待って。会えば思い出すよ。今どこ?」

「会わない方がいいよ。殴っちゃうから。」

「り介、」

「慰謝料よろしく。あとは財産分与なしでいいよね。俺が働いてる間、支えるどころか裏切ってたんだから。」

「無理、無理。離れたくない。」

「黙れ、ゴミ。2度と俺に近づくな。」

数分後、みささんに達也から電話がかかってきた。

「みさ、頼む。もう一度考え直してほしい。全て俺が間違っていた。あんな女にうつつを抜かしたなんて情けないよ。」

「今更遅いわ。」

「人間、誰にでも過ちはあるだろ。認めて反省するからさ。」

「私ね、り介君から知らされた時、信じなかったんだよ。あなたが浮気なんかするわけないって本気で思ってた。」

「そうだ。気持ちはずっとみさの方を見てたんだよ。」

「でもね、証拠を目の当たりにして、生まれて初めての感情を抱いたの。怒りと悲しみと憎しみと絶望がごちゃ混ぜになった感じだった。」

「ごめん。本当にごめん。」

「でもLINEのやり取りを全部見させてもらって、ある一文で感情が怒り1つにまとまった。」

「そんなもの見ない方が良かったんだよ。」

「『母親が死んだくらいで号泣して、大げさな女だよ』。違う?人間、思っていないことは言わないものよ。あなたも今回、両親を失うことになるけど、今どんな気持ちかしら?」

「いや、俺の親は生きてるし。」

「今後2度と接触しないと言ってたわ。」

「え?」

「生きてても会えないなら同じことよ。」

「そんな。表では優しいふりして、裏では正反対のことを考えてる。そんな人とは一緒にいられない。」

「その場のノリっていうか、本心じゃないんだ。」

「5年も一緒にやってきたじゃないか。頼むよ。」

「あなたを思えば、アイロンをかけても、揚げ物で火傷してもなんてことなかった。子供ができなくても幸せだったよ。」

「だよな。俺もだよ。だからこれからも一緒にいよう。」

「もう過去形なの。私の感情を返してください。」

「みさ、私だけじゃなく母まで冒涜したあんたを絶対に許さない。会って話そう。警察でも会社でも好きなところで弁明して。」

「みさ、頼む。俺たちは夫婦だろう。」

「いいえ、もうすぐただの他人よ。」

「どうにかならないか。何でもするから。」

「さようなら。暗い地獄で精一杯反省してね。」

その後、達也は接待費・出張費名目での横領総額1200万円が発覚し、業務上横領罪で起訴されました。懲役3年の実刑判決が下り、慰謝料と横領金の返済を合わせると、生涯かけても返しきれない額になりました。不倫と残業強要の噂は業界中に広まり、出所後の再就職も絶望的です。実家からも絶縁され、今は住み込みのバイトで借金だけを返し続ける毎日を送っています。今の彼には100円のカップ麺すら贅沢品になりました。

ユナは慰謝料500万円を背負いました。最後まで協議離婚に応じず泥沼の裁判の末に離婚が成立し、複数のバイトを掛け持ちしながら、かつてのり介のように夜遅くまで働いているようです。

私はと言うと、景色のいい部屋に引っ越しました。自分だけの趣味で揃えた新しい部屋で過ごす夜がとても穏やかです。

り介君はそのまま会社に残り、今まで未払いだった残業代も一気に支払われたそうです。地獄を共に戦い抜いた大切な戦友。私たちは今もこうしてお互いの幸せを静かに祈り続けています。

あの日失ったものは多かったけれど、手に入れたのは何者にも買えない自由。そして自分を信じる強さです。嘘にまみれた過去を捨てて、私らしく笑って生きていきます。

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