不倫夫「愛人も一緒にアメリカへ連れて行くw」笑顔で承諾した私→空港で私が消えた瞬間、夫の地獄が始まったw

第2部

   

私の名前は山音寺麗子。年齢は50歳。

拓也の言う通り、私は普段高級ブランドの服を着飾ることもなく、地味な服装で近所のスーパーの特売品を買いに行き、庭の草むしりをするごく普通の専業主婦として生活している。

しかし、それはあくまで私が世間に対して被っている仮面に過ぎない。

私の姓は山音寺。日本国内だけでなく世界中に高級ホテルや不動産、巨大な貿易会社を展開する世界的企業グループ・サイオン寺ホールディングスの創業者一族であり、現在グループの過半数の株式を保有する筆頭株主――それが私の本当の姿だった。

もちろん拓也はその事実を一切知らない。

25年前、私は自分の地位や莫大な財産を目当てに群がってくる計算高い男たちに心底うんざりしていた。そんな時、身分を隠してアルバイトをしていた小さな喫茶店で、当時まだうだつの上がらない平社員だった拓也と出会った。

彼は不器用だが真面目で、「今は金もない、取り柄もないかもしれないけど、いつか必ず自分の力で大きな仕事をして君を幸せにする」と真っすぐな目で語ってくれた。その純粋さに引かれた私は、親の猛反対を押し切り、実家と縁を切る覚悟で彼と結婚した。

ただ、完全に縁が切れたわけではなかった。父は一人娘である私を密かに見守り続け、数年前、自身の引退を見据えて密かに私にグループの大半と莫大な株式を譲り渡していたのだ。

拓也が務めている中堅企業も、実は3年前にサイオン寺ホールディングスの傘下に入っている。つまり拓也は、私の手のひの上で泳いでいるただの末端の社員の一人に過ぎない。

彼が「自分の実力で勝ち取った」と豪語しているアメリカ支社長のポストも、当然彼の思い込みだ。

最近、彼の女性関係の黒い噂や、会社の経費を私的に流用しているという疑惑が私の耳に入ってきた。私はかつて愛した彼を信じたかった。だからこそ最後のテストとして、あえて彼に大きな裁量権のあるポジションを与え、彼の真の人間性を見極めようとしたのだ。

結果は惨憺たるものだった。

彼はさやかな権力と金に溺れ、私を裏切り、あろうことか愛人を連れてアメリカへ渡るなどという暴挙に出た。

私はサイオン寺グループの右腕であり、私の右腕とも言える黒崎専務に指示を出した。

「予定通り彼らをアメリカへ行かせなさい。ただし、彼らが乗る飛行機のチケット、そして到着後の手配は全て私が用意した特別なシナリオ通りに進めてちょうだい」

「承知いたしました。全てはお嬢様のご希望のままに。極上の地獄をご用意いたします」

さらに私は、アメリカにいる一人息子・章にも電話をした。

拓也は息子が向こうで死にそうなフリーターか安月給の平社員をしていると思い込み、「俺の優秀な血を引いていない負け組の息子だ」と見下していた。しかしそれは大きな間違いだ。

章は祖父である創業者の抜きん出た経営センスを色濃く受け継いでおり、サイオン寺ホールディングスのアメリカ本部に抜擢された天才肌のビジネスマンだ。現在は最年少の現地役員として、数十億円規模の巨大プロジェクトをいくつも統括している。

「あの愚かな男と泥棒猫のために、最高に絶望的なお出迎えの準備をしておくよ。サイオン寺ホールディングスの真の力を、あの愚か者たちの骨の髄まで味わわせてやる」

準備は完璧に進んだ。

出発前日、拓也は私の通帳と印鑑を強引に奪い取り、「リカのドレス代にする」と吐き捨てた。私は黙ってそれを許した。彼が奪ったその通帳は、私がこの家で「有気麗子」として暮らすためのほんの小銭入れに過ぎない。私の本当の資産があの男には想像もつかないような天文学的な数字であることも知らずに、高々数百万円の端金で有頂天になっているのだ。

そして運命のフライト当日。

成田空港の第一ターミナル。拓也とリカはファーストクラスのチェックインカウンターに並び、周囲の視線も気にせず下品な笑い声をあげていた。

私は彼らの荷物持ちとして、数メートル離れた場所に立たされていた。

「おい、グズグズすんな。さっさとその重い荷物をエコノミークラスの受付へ持っていけ。俺たち選ばれたエリート層の人間は、今からVIP専用のファーストクラスカウンターで優雅にチェックインを済ませるからな」

拓也がカウンターに航空チケットを投げつけた瞬間、端末から冷たいエラー音が鳴り響いた。

「お客様、こちらの航空券はすでにお取り消しされております」

「ふざけるな! 俺はこれからアメリカ支社長として赴任する超エリートだぞ!」

さらにクレジットカードも「不正利用の疑い」で即時凍結されていた。

パニックに陥る二人の前に、黒崎専務と警察官が現れた。

「有気拓也さん、業務上横領の容疑で署まで同行願います」

総額8000万円に上る会社資金の横領。さらにアメリカで契約したタワーマンションの違約金1億円が、すべて彼個人の負債として発生していた。

「れ子、頼む! 助けてくれ! お前がサイオン寺グループのトップなんだろう!」

私は彼に近づき、誰にも聞こえない声で囁いた。

「ええ、私はあなたを助けることができるわ。でもね、拓也さん。あなたにはまだ、私のアメリカの強力な友人たちからのとっておきのプレゼントが残っているのよ」

スピーカーフォンにした電話から、息子・章の声が響いた。

「お前が夢見ていたアメリカ支社長という華々しいポストは、俺が本社の人事部に直接指示して用意させた、お前を釣るためのただの架空の餌だよ」

「俺はサイオン寺ホールディングス・アメリカ本部の最年少役員だ。お前が『賞味期限切れの底辺のババア』と散々見下してきた母さんは、グループの最高権力者にして筆頭株主。そして俺はその正当な後継者だ」

拓也の膝から力が抜け、床に崩れ落ちた。

リカは「私は被害者よ!」と叫びながら彼を切り捨てたが、彼女自身も共犯として逮捕された。彼女は複数の偽名を使うプロの結婚詐欺師で、拓也に睡眠薬を飲ませて全財産を奪う計画だったことも判明した。

義母のかず子も、自分がふんぞり返っていた屋敷が実は25年前から私の個人所有物であることを知らされ、即日退去を命じられた。

数週間後、民事の損害賠償合意書にサインをさせるため、拓也が本社に連れてこられた。

「お前が最初からサイオン寺のトップだと正体を明かしていれば、俺は横領なんかする必要なかったんだ。全部お前が仕組んだ罠だろ」

私は一切の表情を変えず、ただ静かに彼を見下ろした。

息子の章が部屋に入ってきて、冷たく言い放った。

「母さんは一人じゃない。俺たちサイオン寺の人間が全力で守り抜く。お前こそ、自分がどんな滑稽なピエロだったか、まだ分かっていないようだな」

拓也は白目を剥きそうになりながら、警察官に引きずられていった。

その後、私は章と、証拠を提供してくれた誠実な部下・佐藤さんと共に、満開の桜並木の下を歩いた。

淡いピンク色の花びらが春の風に乗って舞い散る。

「綺麗だね、母さん」

「ええ。こんなに穏やかで美しい春の景色を見るのは、25年ぶりかもしれないわ」

私は長年被り続けていた「地味で無力な妻」という息苦しい仮面を外し、春の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。

桜の花びらは、かつての愚かな者たちへの鎮魂歌であり、私自身の再生を祝福する温かい拍手のようだった。

さあ、行きましょうか。私たちの新しい明日へ。