10年間、義実家の住宅ローンを払った私に夫「もう君は必要ないw」と離婚届。私は黙って引き落とし停止――その夕方、督促状を握る夫は震えていた……

第2部

私は高一と結婚した時、29歳だった。

当時の彼は優しく、家族思いの男性だった。

義両親も最初は私を大切にしてくれた。

特に義父の正尾さんは、口数は少ないけれど誠実な人だった。

しかし10年前、状況が変わった。

義父の会社が突然倒産した。

新しい家を建てたばかりだった。

住宅ローンだけが残った。

「このままでは家を手放すしかない」

正尾さんは肩を落としていた。

その夜、高一は私の手を握った。

「頼む、まゆみ」

「3年間だけでいい。父さんたちの家を守りたい」

私は迷った。

でも、義父母の悲しそうな顔を見ると断れなかった。

「3年間だけね」

私は自分の給料口座から、毎月12万円を送金する設定をした。

それが始まりだった。

しかし3年後、高一は言った。

「今は仕事が忙しい」

「もう少しだけ頼む」

その言葉を信じた。

5年。

7年。

気づけば10年。

私は毎月12万円を払い続けていた。

さらに固定資産税。

修繕費。

義母の医療費。

全部、私が負担した。

10年間で私が家に使った金額は1500万円以上。

その間、私は自分の楽しみを全て我慢した。

旅行にも行かなかった。

服も買わなかった。

古い車を修理しながら乗り続けた。

それでも私は思っていた。

「家族のためだから」

でも、高一は違った。

彼は親戚の前で言った。

「この家は俺が守ってきた」

義母も言った。

「高一が立派に払ってくれている」

誰も私の名前を出さなかった。

そして今。

その男は私に言った。

「家計簿と振り込みしかできない女」

私はもう笑うしかなかった。

数日後、義母から連絡が来た。

「今月の家の引き落としは遅れないでね」

「離婚しても責任はあるでしょう」

私は返信しなかった。

そして運命の日。

住宅ローンの引き落とし日。

義母は通帳を確認した。

しかし、そこには12万円の入金がなかった。

残高不足。

引き落とし失敗。

その瞬間、家族の嘘が崩れ始めた。

高一から電話が来た。

「どういうつもりだ!」

「家のローンが払えないだろ!」

私は静かに答えた。

「解除したの」

「今まで払っていたのは私のお金よ」

電話の向こうが沈黙した。

「……嘘だろ」

高一は初めて知った。

自分は何も守っていなかったことを。

彼が大黒柱だと思っていたものは、私が支えていただけだった。

 

翌日。

私は杉原先生という弁護士に相談した。

10年分の通帳。

送金記録。

固定資産税の領収書。

全て提出した。

杉原先生は資料を見て静かに言った。

「これは無償の援助ではありません」

「まゆみさんが負担した正当な支払い記録です」

「返還請求できる可能性があります」

私は初めて、自分の10年間が無意味ではなかったと思えた。

その後、高一との話し合いが行われた。

彼はまだ強気だった。

「俺の金を勝手に使っただろ」

しかし弁護士は冷静に資料を出した。

「ご主人が家計に入れていた金額は月8万円」

「生活費だけで消えています」

「住宅ローンを払ったのは、まゆみさんです」

高一の顔から血の気が消えた。

さらに、私が負担した1500万円以上の記録が示された。

義母も言葉を失った。

「高一が払っていたんじゃ……」

その瞬間、全員が真実を知った。

家を守ったのは長男ではない。

妻だった。

高一は何も言えなかった。

かつて私を見下した男が、今は自分の生活すら計算できない。

数ヶ月後。

家は売却されることになった。

残ったローンを整理し、私への返済も進められた。

義父の正尾さんは私に頭を下げた。

「本当に申し訳なかった」

「あなたに全部背負わせていた」

私は首を振った。

「最初の3年間は、私自身が選んだことです」

「でも、もう終わりにする時だったんです」

離婚の日。

私は役所へ向かった。

高一が最初に置いた離婚届。

それを正式に提出した。

受付の人が確認する。

「受理しました」

その一言で、22年間の結婚生活は終わった。

でも、私の人生が終わったわけではない。

むしろ、そこから始まった。

1年後。

私は小さなマンションで暮らしている。

自分のために料理をする。

自分のためにお金を使う。

娘のナツキとも旅行へ行く。

温泉で娘が言った。

「お母さん、これからは自分のために生きてね」

私は笑った。

「そうするわ」

優しさは、我慢し続けることではない。

誰かを支えることと、自分を犠牲にすることは違う。

私は10年かけて誰かの家を守った。

でも今度は、自分の人生を守っていく。

窓の外には青空が広がっていた。

あの日、高一が突きつけた離婚届は、私を傷つける刃ではなかった。

私を自由にする鍵だったのだ。