「お姉ちゃん、今イオンで最高に可愛いバッグ見つけたんだけど。これ買うから今すぐお金振り込んで。どうせニートで暇でしょ」…

「お姉ちゃん、今イオンで最高に可愛いバッグ見つけたんだけど。これ買うから今すぐお金振り込んで。どうせニートで暇でしょ」...

「お姉ちゃん、今イオンで最高に可愛いバッグ見つけたんだけど」
「そう、よかったね」
「これ買うから、今すぐお金振り込んで。どうせニートで暇でしょ」
「それは絶対に必要なものなの?そうじゃないなら自分のお金で買いなさい」
「は?必要だからお願いしてるんじゃん。これだからこなしの独身様は」
「バッグが欲しい理由に既婚かどうかは関係ないけど?」
「分かってないなあ。マジでいつになったら家出てくの?家に寄生中のニートがいて本当に迷惑なんだけど」
「寄生中のニートって、誰のこと?」
「いやいや、お姉ちゃんしかいないでしょ」
「確かに家にはいるけど、在宅で仕事してるからニートではないよ」
「ずっとパソコンをじっと見てる引きこもりでしょ。前大手企業に勤めてたからって見え張らなくていいよ」
「そんなんじゃないよ」
「パソコンなんて私でも使えるし。そんな嘘はいいからさ、もっとまともな仕事に就きなよ」
「そう思うなら、みこもやってみればいいよ」
「専業主婦なんだから、働く時間あるでしょ」
「は?専業主婦だって立派な仕事だから。まだ1歳のルアちゃんの面倒も見てるし、働くのは無理」
「そのための保育園でしょ。とりあえずお会計してくる。後で振り込んどいてよね」

1時間後。
「今日の買い物、5万2324円かかりました。必要経費として私の口座に振り込んでおいてね」
「5万も、何に使ったの?」
「まずみこのバッグ。それから私の服と靴。その後レストランでお昼ご飯。帰り際に子供のおもちゃに使ったのよ」
「100歩譲ってお昼ご飯代は出すとして、あとは完全に娯楽費でしょ」
「全部必要なものよ。は?私たちに裸で過ごせって言うの?」
「そこまで言ってないでしょ。もうたくさん持ってるから、必要と言える範囲内じゃないって言ってるの。おもちゃだって、結局みこが遊びたいだけだよね」
「偉そうにしてるけど、本当はあなたのお金じゃないんだからね。お父さんから相続したお金で大きい顔しないでちょうだい」
「ああ、もう。遺言書なんかなければ、全部私のものだったのに」
「お母さんたちも遺留分もらってるよね。そのお金で今回のお買い物は十分賄えるはずだよ。まさか、もう使い果たしたの?」
「逆になんであんなは、今も残ってると思うの?相続してから1年しか経ってないじゃない。お母さんは500万、ルミコは250万ももらったでしょ。本当はもっともらえるはずだったけどね」
「弁護士に相談したから、妥当な金額だと思うけど」
「足りない。足りない。もうないわよ。私はね、今まで母親としてあんたたちのために贅沢は我慢してきたの。だからね、自分へのご褒美として好きなだけ使ったのよ。悪い?」
「悪くはないけど…。だったら5万2324円振り込みなさい。あんたの学費やら制服代やら出してやったんだからね」
「分かったよ。今回だけだからね」

5分後。
「とひ君、就活どう?」
「いや、全然ダメですね。今日もハロワで相談です」
「そうなんだ。もう50社以上受けてるし、そろそろ受かりたいですよ」
「そうだね。受かってくれたら私も助かる」
「もしかして、ルミコがまた何かわがままを?」
「うん。今日もお母さんとルミコに請求されちゃって、こんなこと毎回続けてたらお金がなくなっちゃうよ」
「いや、なんかうちの妻がすみませんね。お母さんはともかく、ルミコとルアちゃんに関しては、夫であるとひ君が養うべきだよ。さすがにそろそろ仕事が決まるよう頑張ってほしいな」
「採用するかどうか決めるのは会社ですから。こればっかりはどうしようも」
「どんなところに応募してるの?」
「給料は30万円以上で、役職候補の求人を重視してます」
「そんなところ、なかなかないよ」
「ありますよ。でも書類先行で落とされるんですよね」
「それ、多分資格が必要な求人でしょ。そりゃ落ちるよ。それに智君は元々公務員だったよね。民間企業への転職は難しいって聞くし、もう少しハードルを下げてみたらどうかな」
「役所で7年も務めたのになんでまたゼロから頑張らなきゃいけないんですか?」
「それが転職だと思うけど。よかったら私がどこか紹介しようか」
「いや、自分で見つけたいんで。男なのに誰かの紹介で入社とか、ダサいじゃないですか」
「仕事においてはコネほど大事なものはないよ。そこから新しい人脈や仕事がもらえる可能性もあるし」
「結構です。辞めてからまだ1年しか経ってないし、もう少し温かい目で見守ってもらえませんか?」
「そもそも、なんで辞めたの?」
「え、だってたまさん、お父さんから莫大な遺産を相続したんでしょ?転職のチャンスかなと思って。最悪数ヶ月決まらなくても生活には困らないし」
「言っとくけど、智君のお金ではないからね。男としてのプライドを守りたいなら、ちゃんと働いてルミコと子供を養ってください」

その日の夜。
「ねえ、ルアちゃんが泣いて起きたよ。ルミコ、どこにいるの?」
「あれ、言ってなかったっけ?お母さんととひ君、居酒屋で夕飯だよ」
「小さい子供を置いて何やってるの?ママって泣いてるから、今すぐ戻ってきて。私がいなかったら通報案件だよ」
「育児を共感するの?母親にも息抜きは必要だよ」
「今そういう話してないでしょ。ルアちゃんのために帰ってあげてって話をしてるの」
「ああ、やだやだ。これだから育児の大変さを知らないこなしの独身様は。こうやって追い詰められて、母親はうつになるのよ」
「ねえ、本当に帰ってきて。私、これからクライアントと会議なの」
「料理が来たから、ルアをお願いね」

2時間後。
「今日の夜ご飯代、3万2461円。振り込みよろしく頼んだわよ」
「いい加減にして。今日の買い物は全額出したんだから、居酒屋の分ぐらいは自分たちで出してください。お父さんの遺産、まだあるでしょ。結構あったの知ってるんだから」
「あのさ、今うちがどのくらいかかってるか分かってる?」
「住宅はもう払い終わってるから、余裕でしょ」
「そんなことない。自炊しないから食費は月30万もするし、みんなの携帯代合わせて毎月5万も払ってる」
「基本料金は4000円じゃなかったっけ?」
「家にWi-Fiあるのに、外出ばかりしてギガを超えて追加購入するから高くなるんだよ」
「仕方ないじゃない」
「それだけじゃない。見もしない動画のサブスクが月3万。やりもしない通信教育が月5万。それはルミコがルアちゃんのためにって」
「美容とか服にもお金かけすぎ。20万は使ってるよ」
「だって、シミとか気になるじゃない」
「毎週のように旅行にも行くから15万もかかってるし」
「ルアちゃんにいい経験させてあげるためよ」
「気持ちは分かるけど、まだ1歳だし。普通の家庭はそんな頻繁に行かないから」
「じゃあ今月は家で大人しくしてればいいんでしょ。水道光熱費だけで済むじゃない」
「その水道光熱費も高いんだよね。全部屋エアコンも家電もつけっぱなしで電気代6万。長風呂で追い焚きしまくるからガス代3万。洗濯物まとめ洗いしないから水道代も3万。女物の服、男物の服、子供服、柄物、白いもの、靴下、下着。分けて洗うのは普通でしょ?」
「私だったらもうちょっとまとめて洗うけどな。まあ、そんなわけで毎月大体90万円かかってます。合計額聞いてどう思う?」
「100万いってないの?安く住んでるわね」
「本気で言ってるだとしたら、金銭感覚改めた方がいいよ。これからは節約して欲しい」
「全部、全部、全部必要経費よ」
「あんたに収入ないでしょ?」
「あるよ」
「私の気を引きたいからって、そんな嘘つくんじゃない」
「嘘じゃないんよ」
「あ、あんたのことは愛してるから。会社を辞めて家に帰ってきた時は心配したのよ。だからこの家に置いてやってるのに」
「それは感謝してる。ありがとう。でもそれとこれとは話が別だよ」
「たまき、私はこんな意地悪されてもあんたが好きよ。だからそろそろ帰るから、お風呂沸かしておいてね」

翌日。
「ねえ、私の部屋に入った?」
「なんで?」
「今、文房具の買い出しから帰ったんだけど、部屋中子供のおやつの食べカスだらけだし、キーボードが机から落ちててキーが油まみれなの。ルアちゃん入れたでしょ」
「だってルアが入ってみたいって言うから。子供のやったことだし、許してやって」
「ルアちゃんに怒りはしないけど、でもこの部屋は仕事部屋であって遊び場じゃないから。それは親であるみこが注意するべきだよ」
「注意しても言うこと聞かないのが子供。子供を見るのって大変なんだよ」
「そんなに大変なら保育園にお任せすれば。その間にルミコは働きに行けばいいじゃない」
「え、保育園に預けるのはかわいそうじゃん。親の都合で子供を振り回すわけにはいかないよ」
「いや、昨日の夜、あなたたちの都合で勝手に子供置いて居酒屋に行ったよね」
「ああ、用事があるからまた後で」

5分後。
「とひ、そろそろルアに子供部屋あげたいんだけど、どうかな?」
「まだ1歳だよ。早くない?」
「それがさ、今朝お姉ちゃんの部屋で遊んでたんだけど、子供が『お部屋、お部屋』って言ってたから、部屋が欲しいみたい」
「どうだろう?ルアはまだママといたいんじゃない?」
「とひ知らないの?そもそも海外では子供と親は一緒に寝ないのよ。そうすることで子供は自立心が早くから身につくし、お互いゆっくり眠れるっていうメリットがあるの」
「それはいいかもしれないけど、俺まだ仕事決まってないよ。引っ越した後どうやって生活するの?今の家にいるからたまさんの援助が受けられるんだろう」
「誰が引っ越すって言ったの?」

1時間後。
「たまき、ルミコからお願いがあってね」
「ああ、またお母さんに泣きついてお願いしたパターン」
「そんなこと言わないの。あんたお姉ちゃんでしょ。お願いって何?」
「あんた、その部屋をどきなさい」
「は?なんで」
「ルアちゃんのために子供部屋をあげたいんですって。とても大事なことだから、譲ってあげなさい」
「いやいや、私の部屋は仕事部屋だよ。部屋数がないんだから、リビングとかで我慢しなさい。クライアントとビデオ会議したりするから、リビングでは情報漏洩の心配があるから無理だよ」
「はいはい。仕事してるふりはもういいわよ。仮に仕事だとして、どうせ大した責任もないくせに」
「なんで理解してくれないの?」
「社会から逃げたあんたに、責任ある仕事が務まるわけないでしょう。とにかく私は部屋をどくつもりはないから」

1週間後。
「お母さん、私の部屋は?友達とのランチから帰ったら、私のものがないんだけど」
「この間、子供部屋にするって言ったわよね。まあ、あなたも片付けないから、みんなで協力して片付けました。パソコンはとひ君にサイクルショップに持っていってもらったわ」
「売ったってこと?」
「ええ。なら初期化しておいたから安心して」
「初期化しちゃったの?」
「初期化しないと売れないからね。売ったお金は片付けの代行料金としてもらうわね。嘘でしょ?ふざけないでよ。カスタマイズして50万以上したパソコンなのに。ゲームのデータが消えて焦ってるの?大げさね、お母さん」
「あの中にはね、今プロジェクトの機密が全部入ってたの。もし納期に間に合わなかったら違約金が発生するんだよ」
「何をそれっぽく言ってるのよ。無職のくせに」
「お母さんがしたことは窃盗だからね」
「家族なのに頭って。あんたは自分が何を言ってるか分かってるの?」
「それはこっちのセリフだよ。たまき、厳しい会社に勤めて心が疲れてしまったのは分かるわ。でも、もう何ヶ月経ったと思ってるの?いい加減外で働きなさい。私はその手助けをしただけ」
「余計なお世話だよ。今どこにいるの?」
「売ったお金で焼肉よ。あんたも来る?」
「行くわけないでしょ。人のものを売ったお金で焼肉って、どういう神経してるの?」
「我が物顔で家でくつろぐあんたに言われたくないわね。いい?これを機にちゃんと外で働きなさいよ。在宅とか言ってるけど、パソコンでお絵描きやゲームしてるの、分かってるからね」
「分かった。この家から出て働く」
「本当にいいのね?」
「もちろんよ」
「やっとその気になってくれたのね」
「我慢しようと思ってたけど、お母さんがそこまで言うなら仕方ないよね。じゃあ、家を出る準備するよ。さようなら」
「頑張って片付けた甲斐があったわ。頑張ってね」

5分後。
「子供部屋の件だけど、私に何か言うことはない?」
「何のこと?」
「人の部屋を勝手に片付けて、パソコンも売って、謝罪の言葉ひとつないわけ?」
「は、むしろお姉ちゃんが謝る方だよね。今までずっと部屋を占領してたんだから」
「占領って何?子供の頃からあそこは私の部屋だよ。納得の行くように説明してちょうだい」
「ああ、もうお姉ちゃんのそういうところ嫌い。とひもルアも、みんなあんたのことが大嫌いよ。もう出ていけ」
「じゃあ、出ていくね」
「やっと消えるか。その代わり、もう援助しないからね」
「いいよ。やっととひ君が就職決まったから。焼肉はそれのお祝いでもあるんだよね」
「へえ。どこに決まったの?」
「超大手外資系証券会社だよ。課長候補として採用されたんだって。年収は、うわさでは1200万円。すごくない?」
「それ、本当?大手の課長とはいえ、そんなにもらえるかな?」
「お姉ちゃんは世間知らずだから分かんないか。とにかくお姉ちゃんはもういらないから」
「分かった。今後何があっても、二度と私を頼らないでね」

5分後。
「聞いたよ。就職決まったんだって。おめでとう」
「ありがとうございます。まあ、今まで本気出してなかっただけなんですけど」
「なら、なんでこんなに早く本気を出さなかったの?」
「ルミコに言われたんですよ。自分の妻と子供を自分で養えないなんてダサすぎるって。いい加減頭に来たんで、さすがに本気出しました」
「そう。ところで、私のパソコンはどこに売ったの?」
「近所のハードオフに売りましたよ」
「分かった。ありがとう」
「これを機に、家を出ていくことにするから」
「え?家出ないでくださいよ」
「なんで?」
「いや、ほら、ルアが寂しがっちゃうじゃないですか」
「言うほど懐かれてなかったけどね」
「ルミコが精神的に不安定になるかもしれないですよ。家族なのに見捨てるんですか?」
「その家族のルミコに、出ていけって言われたの。だからこれからはとひ君が支えるんだよ」
「いやいや、ちょっと待ってくださいよ」
「そうそう。今月分の水道代と電気代とガス代、まだ払ってないから、今月からとひ君が払ってね」

1週間後。
「お姉ちゃん、元気?引っ越し先はどう?」
「静かだし、好きな時にお風呂に入れるし。最高だよ」
「強がっちゃって。寂しくなったら帰ってきてもいいんだよ」
「帰ることは二度とないから安心して。それより何の用なの?」
「私たちの幸せっぷりを見せつけてやろうと思って。今ね、とひの就職祝いで回らないお寿司を食べてるの。ほら、お姉ちゃんがいなくても生きていけてるでしょ」
「相変わらず、そんな贅沢してるんだね」
「だって、どうせとひのお給料入るし。じゃ、一人ぼっちの生活楽しんでね」

1ヶ月後。
「とひ、なんか水道も電気も止められたんだけど、今月払った?」
「え、止まった?それはおかしいな」
「まさか、まだ給料振り込まれてなくて払えてないとか?」
「あ、実はそうなんだ」
「私が直接会社に言いつけようか?」
「いや、大丈夫だよ。来月はちゃんと振り込むって」
10分後。
「とひ、どういうこと?会社に電話したら、そんな人はいませんって。嘘なんだ」
「え、でもスーツ着て出勤したよね」
「あれは、はったりで。今は公園のブランコに乗ってる」
「何それ?ダサすぎでしょ。いい加減にしてよ」
「仕方ないだろ。ルミコに散々馬鹿にされて、頭に来たから嘘ついたんだ。俺は悪くない」
「じゃあ、なんで先月分は払えたの?これまで買い物も自由にさせてくれたよね。そのお金はどこから?」
「えっと、借りたんだ。高金利の金融会社から、近くで200万円」
「絶対怪しいところじゃん。どうすんの?これからうちに借金取りが来るかもしれないじゃん」
「ごめんなさい」
「謝っても許さないし、もう離婚だから。二度と帰ってくるな」

5分後。
「お母さん、大変。水道ガス電気、全部止められた」
「え?じゃあ今日お風呂入れないじゃない?今フィットネスで汗かいてるのに」
「それだけじゃないの。とひが超大手外資系証券会社で働いてるのも、嘘だった」
「冗談よね。だってお金は…」
「借金だってよ。これから怖い人がうちに来るかも」
「お母さん、どうしよう」
「こうなったら、たまきに戻ってきてもらうしかないわ。あの女、お父さんの遺産を一人占めしたのよ。何が何でも取り返さなきゃ」

5分後。
「おい、嘘つき野郎。お姉ちゃんを説得して連れ戻すことができたら、家に戻ることを許してやるから。さっさと説得してこい」
「分かったよ」

5分後。
「たまさん、お願いです。家に戻ってきてくれませんか?」
「もう二度と戻らないって言ったよね」
「あの、本当は就職したのは嘘で、お金がなくて困ってるんです」
「だと思った。色々とおかしかったもの」
「水も電気も何もかも止められて、このままじゃ生活ができないので、助けてください。俺たち家族ですよね」
「今までだって十分助けてきたよ」
「でも俺のことは助けてくれなかったですよね。仕事の一つや二つ、俺に紹介してくれても良かったじゃないですか」
「紹介しようとしたよね。でもそれをダサいって言って断ったのはとひ君だよ」
「それは男のプライドなんです。分かってくださいよ。うまいこと言って紹介してくれればよかったんです」
「そのくだらないプライドを捨てれば、仕事はいくらでもあるよ」
「プライド持ってなきゃ、なめられるでしょう」
「そうかもしれないね。私も今の仕事を始めたばかりの頃、若いからって失礼な態度を取られたり、成果を報酬なく持ち逃げされたりしたこともあった」
「ほら見たことか。やっぱり大事なんですよ」
「それでも諦めずに頑張ってきたから、今の私があるの。プライドっていうのは、これまでの積み重ねだよ。だから今のとひ君に必要なのはプライドじゃない。現状を変える努力だよ」
「じゃあ、プライド捨てるんで仕事紹介してください」
「平気で嘘をつく人に紹介できる仕事はありません。じゃあね、もうとひ君にLINEすることはないよ」

5分後。
「お姉ちゃん、お願い。家に戻ってきて」
「今度はルミコか。何の用かは分かるよ。ライフラインが全部止まったから、助けてって話でしょ」
「分かってるなら話は早いわね。お父さんの遺産、まだあるでしょ?一人で持ち逃げなんてずるいわよ。私たちのために残してくれたお金なんだから、早く払って」
「お父さんの遺産は、もうとっくにないよ」
「そんな…、あんなに湯水のように使ってたら、すぐなくなるでしょ」
「え?じゃあどうやって生活費を払ってたの?」
「普通に私が働いて稼いだお金だよ」
「嘘だ。パソコンで遊んでる、引きこもりニートのくせに」
「前にも言ったと思うけど、私が何の仕事をしてるか、もう一度説明するね。まず広告運用やWebコンサルティング、ライティング、サブで投資運用もしているの」
「へ、そんなに色々やってんの?」
「それぞれ波はあるけど、トータルで月平均60から100万は稼いでるよ」
「いやいや、嘘でしょ?」
「嘘だと思うなら、通帳見せようか」
「本当なんだ?」
「なんだ。そんなに稼いでたなら、もっと早く言ってよ。そうだ。子供部屋が気に入らなかったみたいでさ。片付けるから、また前みたいに使っていいよ」
「大丈夫。今の環境の方が静かだから、気に入ってるの。子供の鳴き声や騒ぎ声に対して怒鳴り散らすルミコの声を、気にしなくて済むから」
「それは仕方なくない?」
「そうだね。だから、二人に対して文句を言ったことはないでしょ」
「当然よ。だって私は未来の宝を育ててるんだから」
「でもね、クライアントからは文句を言われたことあるよ。『誰か盗み聞きしてますかね』って」
「そんなの私に関係ないでしょ」
「仕事が嘘だと思っていたとしても、老後の人に対して少しでも静かにしようって気を使おうとは思わなかった?普通の人は思うよ」
「それは…」
「あと、お風呂とキッチンが好きな時に使えるから、そっちに戻ろうとは思わないよ」
「可愛い妹の頼みが聞けないの?」
「全部聞いてあげたじゃない。昔からずっと『お姉ちゃんでしょ』って我慢させられて、いつもルミコだけ欲しいものを買ってもらってたでしょ」
「お姉ちゃんだって買ってもらってたじゃん」
「たまにね。でもそれも、ルミコに欲しいって泣かれて、お母さんに言われて、仕方なくあげたんだよ」
「妹なんだから、仕方ないじゃん」
「ルミコはもう妹じゃない。ルアちゃんの母親でしょ。これからはルミコが子供に与える側なんだよ」
「何よ、子供いないからって偉そうに」
「そうそう。パソコンを勝手に処分した件、弁護士に相談してあります」
「は?何を相談することがあるの?」
「まずデスクトップ一式の弁償25万円。納期が遅れたことによる損害が20万円。データ復旧費用と再構築コストが5万円。合計50万円を、ルミコに請求します」
「そんなお金払えるわけないでしょ。家族なんだから、免除してよ」
「家族ね。家族なら、私の仕事も、私の人生も邪魔しないで欲しかった」
「これからはもう邪魔しない。だから可愛い妹の頼みを聞いて、お姉ちゃん」
「あなたはもう私の妹じゃないから、何もしてあげません。これからは欲しいものがあれば、自分で掴み取りなさい。さようなら、ニートさん」

5分後。
「ルミコから聞いたわ。本当にもう戻ってこないの?」
「うん」
「そう。残念だけど。あんたがそう決めたなら、仕方ないわ。ねえ、たまき。私ね、あんたが生まれてきた時、本当に嬉しかったのよ」
「もう、そんな臭い芝居には騙されないよ。お母さんは、母親であることを利用して私を利用してただけでしょう」
「そんなことないわよ。今までどれだけあなたに尽くしてあげたと思ってるの?」
「具体的に何をしてくれたっけ?」
「ちゃんと大学まで出してあげたでしょう」
「ルミコは全額出してもらって、私は奨学金だったけどね」
「三食しっかりご飯を出したじゃない」
「いつもルミコのリクエストばかりで、私の好きなご飯を出してもらえたことはなかったよ」
「お小遣いだってちゃんと渡してあげたでしょ」
「いつもルミコの方が多かったし、足りなかった時もルミコにだけその都度あげてたよね。でも、あなたはバイトしてたじゃない。そのお金も食費として取られたけどね」
「ああ、もう、ああ言えばこう言う。そんなに文句があるなら、帰ってこなきゃよかったのに」
「そうするつもりだったよ。でも遺言だったから。『家族を託せるのはしっかり者のたまきだけ。どうかたまきが家族を守ってほしい』って、遺言書に書いてあったから、我慢してたんだよ」
「え、お父さんがそんなことを?」
「お父さんの遺言書がなかったら、とっくに家を出てた。あと、お母さんが私を見て愛してくれるかもって、そんな淡い期待もあったんだよ。たまき…」
「でも気づいたんだ。お母さんにとって家族は都合のいいものだって。私のことなんて、本当は可愛くなかったんでしょ」
「可愛い方を可愛がって、何が悪いのよ。顔が可愛くて愛嬌があって、みんなからも愛される。あんたは不器用で何を考えてるか分からない。どっちを可愛がるかは一目瞭然じゃない」
「じゃあ、これからは可愛いルミコになんとかしてもらって」
「でも、それでも私はあんたを愛してるわ。子供は親に孝行するもの。今がその時よ」
「私にとっての家族は、お父さんだけだよ。お父さんは私たち姉妹を比べることなく愛してくれた。いいことをした時はちゃんと褒めてくれた」
「私だってそうしてたじゃない。何が違うのよ」
「今までのことをよく思い返してみたら、分かるんじゃない?」
「お母さんもルミコも、みんな他人。他人を助ける義理はない」
「だって血が繋がってるじゃない」
「血なんかよりも、もっと大事な繋がりがあるでしょ。ごめんなさい。お母さんが悪かったわ。これからはあなたを一番に愛するから」
「もう遅いよ。じゃあね、寄生中さんたち。同じ虫同士、身を寄せ合って生きていきなよ」

その後、ルミコととひ君の離婚が成立しました。家を追い出されたとひ君は借金取りに追われ、ホームレス生活を送っているようです。ルミコはパートを始めたところ、新しい恋が始まり、パート先の店長とそういう関係になりましたが、相手は子供がいる既婚者でした。当然、相手の奥さんにバレて慰謝料請求されたそうです。パートも辞めざるを得なくなり、生活が困窮した一家。ルアちゃんはとひ君の実家で暮らすことになりました。母だった人も悔い改めてパートを始めますが、長いこと専業主婦だったので失敗を繰り返し、ついに解雇を言い渡されたそうです。仕方なく家を売り、激安アパートで二人暮らし。母はルミコを甘やかす余裕がなくなり、喧嘩ばかりの毎日だそうです。最初から母の愛なんて、その程度だったのでしょう。

私はと言うと、たまたまSNSで里親募集の犬を見かけ、保護施設から犬を譲渡してもらい、飼うことになりました。散歩やドッグランなどに連れて行くようになったのですが、そこでいろんな人たちとの繋がりができた私は、久しぶりに人の温かさを知ることができました。犬から与えられる無償の愛、人の温かさ、無条件に自分を愛してもらえる幸せを噛みしめて生きていこうと思います。

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