「あやか、早く帰って家事やれ。1800万の負債があるからな。」離婚した元夫から突然届いたLINEで、私のスマホは凍りついた。10年の婚姻生活中、彼が入れてきた生活費は「私への給料」で、足りない分は「俺に返済しろ」だって。しかも、断った翌日には、会社の上司から「お前の元夫が『社員が給与を横領した』って騒いでるぞ」と呼ばれた。職場にまで来て大声で恫喝した俊介に、私はとうとうある決断をした。それは…

「あやか、早く帰って家事やれ。1800万の負債があるからな。」離婚した元夫から突然届いたLINEで、私のスマホは凍りついた。10年の婚姻生活中、彼が入れてきた生活費は「私への給料」で、足りない分は「俺に返済しろ」だって。しかも、断った翌日には、会社の上司から「お前の元夫が『社員が給与を横領した』って騒いでるぞ」と呼ばれた。職場にまで来て大声で恫喝した俊介に、私はとうとうある決断をした。それは...

「あやか、早く帰って家事やれ。家が散らかってんぞ」

元夫・俊介から突然届いたLINEに、私は思わずスマホを二度見した。

「は? 何言ってるの?」

「家事炊事は嫁の仕事だろ。お前の仕事だ。母さんもぶち切れてるぞ」

「それ、私に何の関係があるの? 私たち、半年前に離婚したよね? 無関係の他人ですけど」

「そうだな。だから?」

「『だから?』って……」

「お前は算数もできないのか。離婚したからって、お前の負債がなくなるわけないだろう」

負債? 何を言っているんだろう。財産分与はとっくに終わっている。

「財産分与は終わってるはずだけど」

「それは夫婦としての生産だろう。俺たちは10年も夫婦生活をやったんだぞ。その間、俺は毎月25万円の生活費を入れてきた。合計3000万円だ」

「ええ、まあ……確かに」

「つまりだ。お前のやってた家事を市場価値に換算してみろ。パート代なら時給1200円がいいとこだろ。家事なんて1日3時間もあれば十分。月々10万ちょいの計算だ。1年で120万ちょい、10年で1200万ちょいだ」

私は頭痛を感じ始めた。

「ちょっと待って。1日3時間だけだと思ってるの? 私は仕事終わりにやってたんだけど」

「仕事終わりにやってただけだろう。3時間でも多く見積もってやってるんだよ」

「それは平日の話でしょ。休日は普段できない掃除をしたり、布団を干したり……」

「そういうのはいいんだよ。計算上は1200万だ。俺が払った3000万から引いてみろ。1800万。お前には1800万の負債があるってことだ」

「は? なんで?」

「理解力なさすぎだろう」

「いや、あなたが理解させる気なさすぎでしょ。ってか、あなたの入れてた生活費で、あなたも生活してたよね? その3000万全額を私の負債扱いするのは変でしょ」

「細かいことはどうでもいいんだよ。事実として、俺が払った金でお前が生きてたんだ。それに、お前の稼ぎは俺以下だろ。給料なんて」

「そんなの関係ないでしょ。私からも生活費は出してたし」

「今言ってるのは、俺が払った額についての話だ。つまり、俺とお前の雇用関係についての話だ」

「夫婦が雇用関係? それは違うでしょ」

「とにかく数字が証明してるんだ。お前は給料を持ち逃げしてる状態だ。分かったら、これから毎日3時間、うちに来て家事をしろ。残り1800万、10年以上かけて返してもらうからな」

数日後、再び連絡が来た。

「おい、いつになったら家事しに来るんだ?」

「行くわけないでしょ」

「お前がうちから出て行ったせいで、うちは大変なんだぞ。お前が家を開けてから半年で、風呂場はカビが生えてきたし、リビングは誇りだらけだ。母さんは足が悪いから家事もできない」

「じゃあ、俊介がやったら?」

「バカなのか? 俺は仕事があるんだ。家事なんてしてる暇ない」

「私は仕事しながら家事やってたけどね」

「それはお前が俺と違って、大して働いてないからだろ」

「そういう問題じゃないでしょ。私も正社員としてフルタイムで働いてるわよ」

「中小企業の平社員が何言ってんだ」

「だとしても条件はあなたと同じでしょ」

「同じなわけない。俺はお前んとこの重要取引先の部長様だぞ。仕事の内容も密度もお前とは違う」

「その部長様が、仕事と家事の両立もできないの? そんな容量の悪さでよく出世できたわね」

「……お前、俺を馬鹿にしてんのか?」

「馬鹿にされてる程度のことは理解できるのね。よかった。話が通じないんじゃないかと思ってたわ」

「話が通じないのはそっちだ。こっちは親切で、家事でチャラにしてやるって言ってんだ」

「それはご丁寧にどうも。でも、お断りします」

「なんだと?」

「一応、取引先の部長様なので、今後も連絡することもあるかと思って、あなたをブロックしてなかっただけよ。プライベートな連絡は、今後は控えてくださいね」

「ふざけんな。お前がそういう態度なら、こっちにも考えがある。債務不履行及び前払い給与の不当利得。これでお前を訴えることもできるんだぞ」

「あら、考える頭もないって大変ね。病院をお勧めするわ。頭の」

「さっきから聞いてりゃ言いたい放題言いやがって。裁判沙汰になったら、お前の会社にもバレるぞ」

「生活費を給料とか言う奴を、どこの弁護士が相手にするのよ。裁判できるわけないでしょ。これだから低学歴は」

「今なら許してやるって言ってるんだ。その優しさがわかんないのか?」

「あなたの優しさなんて、ユニセフも求めてないわよ。どうぞご自由に」

「あっそ。じゃあいい。後から謝っても知らないからな」

「ついでに、あなたはブロックしますから。仕事上の付き合いもあるかと思って残したけど、くだらない妄想に付き合わせられるなら、もういいわ。さようなら」

そう言って、私は俊介をブロックした。

1週間後、外回り中に、私の会社の坂神部長から電話がかかってきた。

「彩佳君、外回り中に悪いね」

「坂神部長、お疲れ様です。何かありましたか?」

「実は非常に言いづらいんだが、例の取引先の高橋部長についてね」

「俊助……いえ、高橋部長がどうかされましたか? 確か今日の昼に坂神部長が対応すると聞いてましたが」

「我が社に来られるということだったからね。私は当然、仕事のことだと思っていたんだが……違ったんだよ」

「違ったんですか?」

「彩佳君が、高橋部長から払われた給与1800万円を横領したとかなんとか言っていてね」

「か、横領……」

「そもそも高橋部長は彩佳君の元旦那さんだろう。こちらとしても、どう対応していいものか」

「あ、本当に申し訳ありません」

「謝罪したということは、心当たりがあるのかな?」

「はい……まあ、一応」

「あまりプライベートのことを聞くのもどうかと思うが、夫婦関係にありながら給与とは、一体どういうことなんだ?」

「実は、ちょっと前に俊助が言い出したことで。夫婦関係中の生活費は、私の家事に対する給与だと」

「はあ? すまない、何を言ってるんだ?」

「私も何を言ってるのかさっぱりで。とにかく、その給料分の働きをしていないので、離婚後も俊介の家で家事をしろと言ってて」

「こういうことは言いたくないが、高橋部長は気が触れたのか?」

「さあ……私としても何とも」

「元々少し高圧的な部分はあったが、仕事に関しては悪くない人物だったと記憶している。いくらなんでも、そんな意味のわからない理論は……」

「俊助との離婚の時、少し揉めたんです」

「そうだったのか」

「俊助の実家で、お母さんと同居してたんですけど、お母さんは足が悪いこともあって家事は丸投げ。しかも物を投げるわ罵倒するわで」

「それは大変だったね」

「俊助に相談しても、取り合ってもらえず。そんな生活に嫌気がさして、私から離婚を……ただ、その際に俊介が離婚したくないと騒ぎまして」

「つまり、あれか。高橋部長は復縁したいということなのか?」

「というよりも……家事をしてくれる相手が欲しいのかなと」

「だとしても、わけのわからない逆効果じゃないか」

「ですよね。私もそう思います」

「まあ、すぐに帰ってもらったが、その場で『横領した社員をかばう気か』『俺はお前らの取引先の部長だぞ』『取引を破棄されたいのか』とかなんとか、我が社に来るなり大声で騒ぎ立てていた」

「本当に申し訳ありません」

「いや、彩佳君が謝ることじゃない。ただ、その後、会社に電話が何度も来ているんだ」

「そうですか……多分、私がLINEをブロックしたから電話番号も変えてあるんで、連絡が取れなくなって会社に、というわけかな」

「なんとも迷惑な話だ」

「すみません。一度、私の方から連絡を入れて、話をしてみます」

「大丈夫なのか?」

「LINEのブロックを解除して話をするだけですよ。直接会ったりする気はありませんので」

「ならいいが。とはいえ、何かあればすぐに言ってくれ。会社の方にも実害が出ているんだ。最悪の場合は、会社として対応させてもらうよ」

「ありがとうございます。すぐに連絡してみますね」

通話を終え、私はブロックを解除して俊介に電話をかけた。

「俊助、あなた何やってるの? うちの会社に来て騒いでた」

「お、なんだ、ブロック解除したのか。ってことは、相当堪えたみたいだな」

「そういう問題じゃないわよ。なんてことしてくれてるの?」

「俺は正当な権利を主張しただけだ。元を言えば、給料を持ち逃げしたお前が悪い」

「悪いのはあなたの頭でしょ。とにかく、もうこんなのやめて」

「俺が悪いことをしたみたいな言い方だな。お前んとこの会社の社員は横領犯ですよって、親切に教えてやっただけだろ」

「何が横領犯よ。わけわかんない理屈で迷惑をかけるなって言ってるの」

「だったら、さっさとうちに来て家事しろ。母さんも、的当ての的がなくなって寂しがってるぞ」

「本当に最低ね……お母さんに言っておいて。そんなに的が欲しいなら、あなたのボンクラ息子に当ててろってね」

「はっ。これで分かったろ。こっちにはやり方なんていくらでもあるんだ。お前が給料分の家事をしないなら、これからも続けるぞ。そうなったら、お前も会社にいづらくなるんだろうな」

「そうなったら、あなたも会社にいづらくなるわよ。あなたのやったことは立派な威力業務妨害よ。続けるなら、うちの会社だって法的措置を取るわ」

「訴えたいのはこっちだ。そもそも、お前んとこの会社に、俺を訴えることなんてできるかよ」

「どうしてよ」

「お前んとこの会社で一番大きい取引先、それがうちの会社だ。しかも俺はその窓口担当者だ。俺を訴えて損をするのはそっちだと思うけどな。会社の利益をお前一人のために捨てるか?」

「それは……」

「そういうことだ。明日の朝から早速頼むわ。俺の朝飯は、焼き魚と味噌汁がいいな。よろしく」

同日、坂神部長が私を呼んだ。

「彩佳君、話があるんだが」

「坂神部長、お疲れ様です。確か、俊介への対応を上層部で協議されるとか」

「ああ。君が高橋部長にしてくれた連絡、その結果を踏まえて、我が社の対応を決めさせてもらった」

「どうなりましたか?」

「結論を先に言おうか。我が社はあちらの会社へ正式に抗議させてもらう。加えて、高橋部長個人には威力業務妨害で訴える」

「それはもちろん助かりますが……」

「どうした? 何か気になることでも?」

「いえ、我が社にとってあちらの会社との取引は……」

「ああ、もしかして、高橋部長が言ってたことかな? 『大きな取引先だ』と。私個人の事情で会社に迷惑をかけるのも……」

「心配はいらない」

「え? それはどういう……」

「そもそも、高橋部長は勘違いをしているんだよ」

「勘違い?」

「彼はどうも、我が社との取引は自分がいるからだとでも思っているようだね」

「はあ」

「実際、我が社の取引を締結したのは俊助ですし、今も窓口担当者として密接に関わってますよね。それがそもそもの勘違いだと言っているんだ。言いたくはないが、我が社にとってもあちらにとっても、高橋部長など重要ではないんだよ」

翌日、坂神部長は俊介にLINEを送った。

「高橋部長、LINEで失礼する」

「なんだよ。こっちは今、機嫌が悪いんだ。下請けの部長ごときが何の用だ?」

「これはこれは、随分と強気な態度だ。もしかして、彩佳君がそちらに伺わなかったからかな?」

「そうだよ。あいつ、俺からしっかりと言ってやったのに、まあ普通は来ないだろうな」

「はあ、あなたも大変だな」

「大変とは? 物分かりの悪い、あの彩佳みたいな部下がいてよ」

「そうかな」

「あいつが俺の言うことを聞かないなら、俺がやることは変わらない。なんだったら、お前んとことの取引を破棄にしてやってもいいぞ」

「ああ、なるほど。これは確かに頭の痛い相手だ」

「それが嫌なら、あなたの方からも言ってやれよ。会社に迷惑かけずに、横領を認めろってな」

「ああ、その心配はいらないよ」

「ああ? もしかして、もうあの彩佳のところに行ったのか?」

「そうじゃない。ただ、君が我が社に来ることは二度とないだけだ。もちろん、電話をかけてくることもないだろう」

「は? そんなの、俺が決めることだ。下請けが決めることじゃないんだよ」

「決めたのは、そちらの社長だが」

「え? うちの社長? いや、なんでうちの社長が出てくるんだよ」

「それはもちろん、御社に正式に抗議したからだ。御社の社員が頭のおかしいことを言っていると。迷惑だからやめさせてくれとね」

「バカか。そんなことして、俺に何かあってみろ。お前んとことの取引は終了だ。元々、俺が拾ってやったんだからな」

「ああ、よくそれで部長やってこれたな」

「なんだと?」

「確か、高橋部長が我が社との取引を決めたのは、彩佳君が御社にプレゼンに行った時だったかな」

「ああ……彩佳のプレゼンを聞いて、俺が動いた。大した内容じゃなかったが、悪くなかったからな」

「その時、御社の社長も同席していたはずだが」

「うちの社長は、あなたのとこの会社に何も思ってないはずだ」

「どうしてそう思うんだ?」

「うちの社長はせっかちなんだよ。本気で魅力を感じたなら、自分で取りに行ってたはずだ。それをしなかったってことは、そういうことだろう」

「だが、実際に取引をしているということは、社長の同意を得られたからだと思うが。そこは俺の力だ。取引の締結だって、俺がかなりご利用した」

「ああ、俺は実績もあったから、上を黙らせるくらいは余裕だったわけだ」

「ああ、まさか、その程度の認識とは……御社の社長は、彩佳君のプレゼンを見て、すぐに取引をするべきだと思ったそうだ。真っ先に君が手を上げたから、譲っただけだ。結果として取引が成立するなら問題ない。窓口に君を今も置いているのも、そのままにしてるだけだ」

「いや、うちの社長なら、もっと自分から……」

「私はこれでも、御社の社長とはゴルフに行く仲でね。最近は、後継者の育成に力を入れていると聞いている。つまり、若手の君に譲っただけだ。君以外の誰かであっても、そこは変わらないだろう」

「ちょ、ちょっと待て。なんであなたがうちの社長とそんな親しいんだよ」

「おや、下請けの部長ごときよりも親しくないのかな? それは、自社の社長に、下請けの部長ごときよりも目をかけられていないと」

「う……そんなはずないだろ。俺は実績もいっぱいあって」

「その分、行状も悪いと聞いている。近いうちに左遷も視野に入っていたそうだよ」

「え? 左遷? 俺が?」

「まあ、今回の件を受けて、左遷はなくなった。安心するといい」

「そうだよな。俺みたいな優秀な男を左遷なんて、するはず……」

「ああ。大事な取引先に迷惑をかけ、その上威力業務妨害で訴えられるんだ。妥当な経営判断だろう。それではこれで失礼するよ。高橋元部長様」

1週間後、俊介から、なぜかまたLINEが来た。再度ブロックするのを忘れていた。

「あやか、お前さ、帰ってこないか」

「は? 何言ってるの。ってか、再度ブロックするの忘れてた」

「俺……会社、首になったんだよ」

「らしいわね。坂神部長から色々と聞きました」

「坂神? あいつのせいで俺は……ちくしょう、なんでこんなことになったんだよ」

「自業自得。他に言うことないけど」

「会社を首になっただけじゃない。お前んとこの会社から訴えられたんだぞ。威力業務妨害だっけ? 損害賠償で300万だ」

「仕事もなくなった人間相手に、よくやるわ」

「なんで被害者ずらしてるんだよ。ただでさえ母さんの世話も家事もあるってのに、家もめちゃくちゃだ。カビ生えてるんだっけ?」

「それはずっとでしょ」

「俺の首を知って、母さんが荒れてんだよ。あのババア、物を投げてきやがった」

「良かったわね。新しい的よ」

「うるさい。リモコンだの本だの、手当たり次第に……おかげで自己破産しそうだ」

「ああ、もうなんか懐かしいわね。私もよく投げられてた」

「こんなことで懐かしんでんじゃねえよ。今は生活に問題はないけど、貯金が多いわけでもない。加えて300万の支払い。大変だ」

「払うしかないでしょ」

「それを払ったら、もう……」

「はいはい」

「もう俺たちには、お前しか頼りがいないんだ。頼む。帰ってきてくれ」

「嫌です。以上」

「閉じこもんなよ。俺だって反省したんだよ。ここ数日、家事やって、母さんに物投げられて、どれだけ彩佳が辛かったか実感した」

「ああ、そうですか」

「帰ってきてくれたら、もうあんなことはしない。母さんの世話や家事だって手伝う」

「あのさ……反省してないなら、反省してないってはっきり言ってね」

「ああ、反省してるって言ってんだろ」

「じゃあ、手伝うって何?」

「何って、そのままの意味だろ。お前にばっかり負担をかけてたことを自覚したから」

「あなたは今、無職で300万の支払いが確定済み。仮に私が戻ったとして、生活費は私が払うのよね?」

「それはまあ、夫婦に戻るなら当然だな」

「ってことは、今度は私があなたの給料を払うわけね」

「給料って……夫婦なんだから、そんな言い方」

「これはあなたの理屈でしょ」

「そうだけど……その場合、家計負担マックスなら、手伝うじゃなくて、家事やお母さんの世話はそちらのフル負担じゃないとおかしいよね」

「いや、ちょっと待てよ。そんなのおかしいだろ。どこが?」

「どこがっていうか、夫婦ってそういうのじゃないだろう。2人で力を合わせて……」

「なら、最初からそれは無理ね」

「なんでだよ」

「さっきも言った通り、今の状態だと私の負担が大きい。力を合わせようとして、一方的に寄りかかってくる奴と、どうやって一緒にやるのよ」

「そんなの、俺が再就職すれば問題ないだろう。それまではお前に頼るけど」

「その重荷がおかしいって言ってんの。私にメリットないじゃない」

「夫婦ってのはメリットじゃないだろ。大事なのは気持ちだ。愛だろう」

「じゃあ、愛がないんで無理ね」

「お前な……」

「あと、300万。その程度で済むと思ってるの? 私の話を聞いた坂神部長が気を利かせてくれてね。うちの会社の顧問弁護士と話をしてくれたの」

「顧問弁護士? なんで弁護士なんか出てくるんだよ」

「慰謝料を請求するのよ。あなたとお母さんにね」

「はあ?」

「さっきも言った通り、お母さんのせいで私は何度も怪我をしてる。加えて、その事実を知りながら、あなたは無視してきた。離婚してすぐは、もう関わりたくもなかったのよ。けど、何もしてなくてもあなたが関わってくると分かった。なら、やれることはやった方がいいでしょ」

「ふざけんな。慰謝料って一体……」

「実際に怪我もしてるし、診断書もある。まあ、200万くらいね」

「200万? 嘘だろ?」

「反省してるのよね?」

「え? ああ……してる。反省はしてるけど、それとこれとは……」

「よかった。じゃあ、反省の印を見せて。あれだけ私に言ってきたんだもの。まさか、慰謝料を払わずに逃げるなんてしないわよね」

こうして俊介は、会社への賠償金と私への慰謝料、合計500万円の負債を抱えた。とりあえず貯金を全額使い、足りない分は借金して返済。結果として、手元には100万円の借金だけが残った。

再就職をしようにも、お母さんの世話がある。足が悪いとはいえ、杖を使えばある程度は生活できるレベルだが、生活の全てを自力でこなせるわけではない。今までは私がやっていたが、今は俊介が一人でそれを負担している。結果として、思うように就職できず、アルバイトをして暮らしているんだとか。

もちろん、お母さんは的当てゲーム大好き人間だから、的には困っていない。今日も、なんとか形だけは整った部屋で、全力投球を楽しんでいるそうだ。

慣れない家事にバイト、お母さんの世話に100万円の借金。俊介は人生の負債をたくさん抱えているみたいだ。私に負債と言っていたので、きっと悔しいだろう。

私はといえば、ようやく俊介という負債を人生から取り除いて、のびのびと日々を過ごせている。やっぱり、重いものを持って生きるのは良くないなと実感している。

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