「お母さん、この贈り物は何?ピーナッツが1個だけ送られてきたんだけど」
「子供が生まれたでしょ?そのお祝いよ。ありがたく受け取りなさい」
「ピーナッツなの?」
「それが私の気持ちを表してるから。ちなみにあかりも可愛い男の子を産んだのよ。将来有望な夫婦の出産祝いは新築一軒家にしたわ」
「一軒家?やりすぎよ」
「別に大したことじゃないわ。お父さんは会社の社長よ。家の1つや2つプレゼントしたって問題ないわ。まあ、ダメ夫婦のあんたたちはピーナッツ1個で十分だと思うけどね」
「相変わらずそうやって差をつけるんだね」
「そうよ。あんたも男の子を産んだみたいだけど、後継ぎにもなれないし。当然よ」
「物事をそんな風にしか考えられないなんて、本当に寂しい人ね」
「何よ。ピーナッツ1個でもあんたたちからしたらありがたいもんでしょ。どうせまともに食えてないんだから」
「そんなことないわよ」
「あんたの旦那はしょうもない銀行員でしょ。よくもそんな男と結婚したわね。私なら絶対にしないわよ」
「私のことを悪く言うのは別にいいよ。でも幸彦のことを悪く言うのはやめて」
「何をそんなに怒ってるの?もしかしてそんなに家が欲しかった?」
「別にいらないよ。私たちはもう家買ったから」
「そうそう、あの中古のボロ一軒家でしょ。細長くてソファーとかベッドが縦にしか入れられないって言ってたわよね」
「そんな話はしてないよ。立地もいいし、私たちが住むのにはぴったりだから買っただけ。その家を馬鹿にするのはやめてよね」
「ちなみにあかりたちが住むのはとっても大きくて庭付きの豪邸よ。あんたたちの家の何倍も敷地面積があるんだから」
「そう、それは喜んだでしょ。親としてこれくらいはやってあげたいのよ。あかりたちがこれからの我が家を引っ張っていく存在だから」
「どう思ってる?後悔してる?」
「何が?」
「お父さんの言いつけを破って変な男と結婚したことよ。お父さんの持ってきた縁談を受け入れておけば、今頃あんたがあの家に住んでたのよ」
「別に何とも思ってないから。それじゃあ私は子供の世話をしないといけないから」
「あっさりしてるわね。それじゃあ私はお孫ちゃんに会いに行こうかしら」
10分後、妹のあかりが私の家に来た。
「ねえ、あんたの家にピーナッツが届いたってマジ?」
「ええ、そうよ。出産祝なんだって」
「おめでとう。良かったね。あなたは家をもらったんだって」
「そうそう。まあでもこれも社長の特権よね。当たり前だと思わない方がいいわよ」
「あんたにそんなことを言われる筋合いないわよ。どうせ嫉妬してるんでしょう」
「別に嫉妬なんてしてないって」
「父さんに見捨てられた気分はどうなの?」
「特に何もないわ」
「お父さんの会社で経理として働いていた時は、実家でいい暮らしができてたのにね。なんで縁談を断ったりしたの?そんなことしなかったら幸せになれたのに」
「あなたは幸せなの?私が断った縁談を受け入れるなんて、よくできたわね」
「当たり前でしょ。だって親の願いなんだから。私たちが今こうして生活できてるのは誰のおかげ?父さんたちのおかげだって分かってるでしょ?その恩返しをするのは普通のことじゃない。むしろそれを断れるあんたの神経が信じられない」
「私は私のやりたいことを貫いたってだけよ」
「大学にも行かせてもらって、仕事だってお父さんの会社で働かせてもらってたのに、どうしてそんなことができるの?」
「あんたは昔から父さんたちに甘やかされてたもんね。それできっと調子に乗ったんでしょ。これくらいのわがままは許されるとか思ってたんだ」
「だからそんなんじゃないって言ってるでしょ。むしろ私はあんたのことが心配よ」
「心配ですって?」
「あんたは自分のやりたいことができてるの?今の状況が心から幸せだって思える?」
「当たり前でしょう。うちの旦那は父さんの下で将来の社長候補として仕事をしているわ。私も今は産休中だけど、経理として将来は社長夫人になる。さらに大きな家があって可愛い子供もいる。これ以上何が必要だっていうの?」
「そう。あなたが幸せならそれでいいのよ」
「何をこんな時だけ姉面をしてんのよ。あんたと私の立場はもう変わったの?今は私の方が父さんたちに可愛がられてるのよ。それなのに偉そうな態度を取らないで」
「もういいわ。何があっても子供だけは幸せにしてね。その子の将来はその子のものだから」
「何を言ってんの?意味わかんないわ」
30分後、夫の幸彦が帰ってきた。
「なお、お母さんと連絡は取れた?あのピーナッツどういうことか俺も気になっててさ」
「なんてことないよ。嫌がらせだったわ」
「嫌がらせ?お母さんから?」
「そうよ。出産祝があのピーナッツだったみたい」
「え?何それ?」
「本当にふざけたことをしてくれるわ。しかも妹には一軒家をあげたんだって。だからその差を見せつけるためにピーナッツなんて送り付けてきたのよ」
「随分と悪質なことをしてくるね」
「私があの人たちの命令に背いた時から、とにかく嫌われてるからね。これくらいのことはもう気にしてられないわ。結婚の挨拶に行った時に、どれだけ嫌味なことをあの2人から言われたか」
「本当にごめんな。俺のせいで」
「幸彦は何1つ悪くないのよ。私は私の人生にとって最善の選択をした。あの人たちはそれがとにかく気に食わないのよ」
「そうなんだね。でもあかりがこの先どうなるのか心配よ。親の言いなりになりすぎてる気がしてるから」
「でもそれはあかりちゃんが選んだ道だからね」
「そうね。あの子も立派な大人だしね。ごめんなさいね。嫌な気持ちにさせちゃって」
「それはなお子も同じだろ」
「全然。私はもうあの人たちのこと意識してないから。それじゃあ早く帰ってきてね。パパに会いたいってみくるが言ってるわ」
「そうだね。仕事が終わったらすぐに帰るよ」
1週間後、母から電話がかかってきた。
「お母さん、いい加減にして」
「何よ?急に」
「さっきおじさんから連絡があったのよ。いきなり電話をしてきて、幸彦が私たちを騙してるとか言い出したのよ」
「あらあら、そうなの?」
「知らばっくれないでよ。おじさんに嘘を吹き込んだのはお母さんでしょ。女遊びが激しくて、社長令嬢だった私と社長という肩書きと遺産目当てだったとか言って。それでおじさんが心配して連絡してきたのよ。今からうちに来て幸彦をとっちめるって言って大変だったんだから」
「私は別にそんなこと言った覚えはないわ。お兄さんも年だから色々と勘違いしてるのね」
「だとしてもお母さんが原因なんだから。私は『騙されてもしない限り、あんたが私たちを裏切るなんてありえないわ』って言ったのよ」
「昔のあなたはそれはそれは素直で、私たちにとって自慢の娘だったからね。それがこんなことになって心配だったのよ」
「今まで私たちのことなんて全然気にしてなかったくせに、どうして急にこんなことをしてくるのよ」
「お父さんも私も考えたのよ。あなたに最後のチャンスを与えようと思ってるの」
「チャンス?」
「今までのことは全部水に流してあげるから。その男と離婚して、今すぐに実家に戻ってきなさい。そうしたらあんたたちのことは面倒見てあげる」
「何を言ってるのよ。私たちは幸せにやってるわ。それに実家に戻るなんて絶対に嫌よ」
「私たちはあなたたちのことを心配して言ってあげてるのよ。うだつの上がらない銀行の稼ぎであなたも息子もちゃんと生活ができると思ってるの?うちに来たらそれはそれはいい暮らしができるわよ。もちろん小中高大学だって私立に行かせてあげられるしね」
「そんなの別に必要ないって言ってるの」
「あなただってうちをやめて変な会社で働いてるんでしょ」
「変なとか言わないでよ。とてもしっかりとした会社よ。そこでも経理を任されてて、それなりに信頼を得てるわ。だから産休が終わったら戻るつもりだし」
「うちに戻るつもりはないの?」
「ないわ。それにあかりがいるでしょ」
「それはそうだけどね」
「なんでそんなことを言ってくるの?何か狙いがあるんでしょう。正直に言いなさいよ」
「何事にも保険がいるのよ」
「保険?」
「後継は基本的にあかりの子供で決定してるわ。でももしもの時に備えてバックアップが必要なの」
「もしかしてそれがみくるってこと?」
「そんな名前なの?まあそういうことよ」
「ふざけないで。どれだけ自分勝手なのよ」
「うちの後継になれるかもしれないんだから、そっちの方がいいでしょ。もし慣れなかったらどうなるのよ」
「そうね。とりあえずうちからは出ていってもらうわ」
「当然でしょ。よそ様なんだから」
「そんなこと許されるわけないでしょ。みくるの人生を何だと思ってるの?」
「私たちの提案が飲めないっていうの?」
「そんなものを飲める親はこの世にはいないわよ。人の親なら分かるでしょ」
「あんたにそんなこと言われる筋合いないわよ」
「もういい。あんたたちとは今後一切関わらないようにする」
「なんですって?」
「もう絶縁するって言ってるの。連絡先も全てブロックするから関わってこないで」
「本気で言ってるの?私たちからもらえる恩恵を手放すっていうのね」
「ピーナッツ1個でしょ?あってもなくても一緒よ」
「ええ、言うじゃない。それじゃあさようなら。もうあんたたちは家族でも何でもないから」
「どうぞ。私たちの提案を断って後悔しても知らないからね」
「するわけないでしょう」
2年後、幸彦のスマホに母から連絡が来た。
「幸彦さん、久しぶりね」
「え、もしかしてお母さんですか?」
「あなたがブロックしないでくれてよかったわ」
「まさか俺に連絡が来るなんて思ってなかったですから。ブロックし忘れてただけですよ」
「そう。でもそんなのはどうでもいいのよ。もしかしてなお子に何か用ですか?でもなお子はもうお母さんたちとは絶縁してますからね。何か伝えようとしても無理だと思いますよ」
「違うの。もちろんあの子にも話したいことはあるんだけど、私は幸彦さんと話がしたくてよ」
「俺と?どういうことですか?」
「実はあなたの銀行と融資の相談をしたくてね」
「え、そうなんですか」
「そうなのよ。でもどうしてうちなんですか?お母さんはうちの銀行を馬鹿にしてたじゃないですか」
「あれは別に本音ではないの。ただ娘を取られたような気がしたから。感情的になって言ってしまっただけよ。あなたが働いている銀行はとても立派なところだと思うわ」
「でも勇志(父)はどうして?経営状況は順調だと聞いてましたよ」
「私もそうだと思ってたわ。でも夫が言うにはここ数年ずっと赤字続きだったみたいなの」
「そうなんですか」
「ええ、私も全然気づかなかったわ。今までと何も変わらずに生活ができていたから。でも会社的にはずっと無理をし続けてたみたいなの。でもいよいよ追い詰められちゃったみたいでね。それで色々な銀行に融資のお願いをしてたんだけど、どこからも融資はしてもらえなくて」
「そうだったんですね」
「だからあなたのところで是非融資をお願いしたいのよ」
「そう言われましても」
「なんでよ」
「他の銀行で断られたということは、返済が見込めない状況だということです。それでしたらうちでも同じ結果になると思いますが」
「ちょっと待ってよ。そういうのをあなたがどうにかするんじゃないの?うちの会社を守るために動きなさいよ」
「私がそこまでする義理はありませんよ。私にとってどちらかと言うと恩義があるのは銀行の方ですから。大学を卒業してずっと働いていて、ここにはたくさんの仲間もいます。彼らの生活を守るためにも、そんな危険な橋を渡るようなことはできないですよ」
「仲間?こっちは家族よ。どっちを大事にするかの優先順位もわからないの?」
「分かってますよ。その上であなたたちが下なんです」
「ですって?」
「そもそもあなたたちは家族でも何でもない。絶縁をしたと言ったはずですよ」
「また結婚の挨拶の時のことを根に持ってるの?あれは感情的になっただけだって言ったはずよ」
「そんなことはどうでもいいんですよ。俺が頭に来てるのは、愛する妻を蔑ろにしたことです」
「蔑ろ?」
「自分たちの意に沿わないと分かった途端、あなたたちは直子に対してひどい言葉をぶつけた。私はその時のことを詳しく聞いてるんですよ。結婚の挨拶の時だって、私にかけられた言葉じゃなくて直子に向けられた言葉の方が私は辛かった。どうして自分の愛する子供にそんな言葉が使えるんですか?親になった今だからこそ、それが信じられないんです」
「あの子をここまで育ててあげたのに、裏切られたのが許せなかったのよ。あなただって子供を育てれば分かるわ。子育てってとても大変なことなんだから」
「私は親として子供には幸せになってもらいたいです。そうなってくれれば苦労も報われることでしょう。決して自分たちの気持ちを押し付けるようなことはしませんから」
「あんたは何も知らないからそんなことが言えるのよ」
「我が子を苦しめるような事情は知りたくもないです。とにかく融資の件はうちではお受けできません。もしどうしても融資を受けたいのなら、私を通さずに直接銀行に話をしてください。ただそちらの事情が確かならば、断られるとは思いますけどね」
「ああ、そう。別にあんたたちだけが頼りだったわけでもないわ」
「そうですか。では私の方もブロックをさせてもらいますね」
翌日、母から電話がかかってきた。
「母さん、久しぶり」
「何よ?私たちが苦労してるのを笑い者にしたいの?本当に性格の悪い子ね」
「別にそんなつもりはないわ。ただ幸彦から聞いてちょっと気になったのよ」
「あんたって今も仕事はしてるの?」
「もちろんよ。産休も明けて仕事に復帰してるわ。うちに戻ってくる気はない」
「はあ。なんでよ」
「うちにはまともな経理がいないのよ。赤字続きで多くの社員を経費削減のためにリストラしないといけなくて。それで経理部の人間をかなり減らしたみたいだから。かなり追い込まれてる状況ね」
「でもそれでもあかりがいるじゃない」
「だめよ。あの子はほとんど仕事を覚えられないの。今までだって他の人に全部仕事をさせて、あの子はただ椅子に座ってただけだから」
「なんでそんなことになったの?」
「最初はちゃんと覚えさせようと指導はしたみたい。でも本当に何もできなかったんだって」
「どうしてそんなあかりだけを残したのよ。真っ先に首にすべきじゃないの?」
「我が娘を首にするなんて、そんな情けないことができるわけないでしょ。それにあの子は将来の社長夫人なのよ」
「会社を守るのと対面を守るのとどっちが大事なのよ」
「両方に決まってるでしょ」
「結局どっちも守れてないって分かってる?」
「うるさい。あんたは嫌味を言いに来たの?」
「違うわよ。あなたたちと一緒にしないで。気になったことがあったって言ったでしょ。そのことをちょっと伝えようと思って」
「何よ?」
「数年前から赤字続きだったんだって。どうしてそんな経営状況なのに優雅な暮らしが遅れていたの?普通はもっと色々なところを切り詰めて生活をするんじゃないの?」
「いや、それは社長だから」
「会社がピンチなんだから、社長だとかそんなのは関係ない。何が言いたいのよ」
「お父さんが会社のお金を私的流用してた可能性があるわ」
「は?そもそもおかしくない?それだけ金がないのに、どうやって娘の出産祝に庭付きの豪邸なんて買えるのよ。そんなの普通に考えて変よ。あなたたちの経済状況なら、本当にピーナッツ1個が精一杯だったんじゃない?」
「そんなわけないでしょ。なめたこと言わないで」
「それは言いすぎだとしても、ちょっとさすがに見過ごせないわ」
「見過ごせないって何よ」
「まだそっちで働いてた時の同僚がいるから、きちんと調べるように伝えているわ」
「何言ってるの?それもう伝えたの?」
「うん。じゃないとお父さんが何か隠蔽しちゃいそうじゃん」
「なんでそんなことをするのよ。家族を危険に晒すような真似していいと思ってるの?」
「都合のいい時ばかりを持ち出さないで。あんたたちは家族のことなんて何とも思ってないでしょ」
「そんなことないわ」
「あんたたちにとって家族ってのは、都合が良くて利用できるだけの存在でしかないの。だから私がそうじゃないって判断したら、当たり前のように捨てたでしょ。そんなことをするような人間を私が守る意味はないわ」
「だってしょうがないじゃない。私は長男を産めなかったの。後継を生むことができなかった私は、こうすることでしか夫と会社に貢献できなかった。だから仕方なく」
「結局あなたは罪悪感を払拭するために私たちを使ったってことでしょ?それが親のやることかしら?」
「私だってやりたくてやってたわけじゃないわよ」
「そんなのは言い訳にもならないわ。今はとにかく残された会社の人たちを守る方が優先よ。彼らにも家族がいるし、守るべき人生があるんだから」
「そんな…」
「それじゃあお父さんによろしく伝えておいて。あんたたちと縁を切っておいて本当に良かったわ」
1ヶ月後、家の壁に落書きがされているのを見つけた。
「あなた、何をしてるの?」
「何がよ?」
「家に帰ったら部屋の壁に落書きがされてたわ。どうしてこんなことをするのよ」
「は?何が?」
「とぼけないで。『親不幸者』とか『裏切り者』とか、あなたが書いたんでしょ?」
「あんたのことを嫌ってる人がやったんじゃない?」
「胸に手を当てて、誰かを思い浮かべない?もしかして多すぎて検討がつかないのかしら?」
「こんな子供じみたことをして、あれからよっぽど大変だったみたいね」
「あんたのせいでね。会社は潰れたの?」
「いいえ。会社自体は残ったわ。でもお父さんは会社を売って社長をやめたの。今はもうあの会社は別の人のものになったわ」
「そうなんだ」
「それと、あんたのせいでお父さんは横領を疑われて刑事告発もされちゃったのよ」
「そりゃそうよ。やってはいけないことをしたんだから」
「そのせいで会社を売ったお金も何もかも全て損害賠償の支払いに持っていかれたわ。あなたの家はもうそんなのないに決まってるでしょ。それも売って支払いに当てたのよ」
「そう。それで私に対して仕返しとして家に落書きをしたってことね」
「だからそんなことはしてないって言ってるでしょ」
「家の前にカメラを設置してるのは気づかなかった?」
「カメラ?」
「そうよ。色々と物騒なご時世だからね。家族を守るために監視カメラを取り付けたのよ。まさかそこで久しぶりにあなたの顔を拝めるとは思わなかったわ」
「まさかカメラなんて」
「あんたのやったことは器物損壊よ。立派な犯罪だから警察に被害届を出すわ。もちろん損害賠償請求もさせてもらう」
「本当に余計なことをしてくれたわね」
「私まで警察に売るつもり?」
「犯罪をしたんだから当然でしょ」
「なんで私ばっかりこんな目に会うのよ」
「悪いことをしたんだから当然でしょ。そもそもあんたが私を馬鹿にしてたのが悪いのよ。ずっとあんたばかりお父さんたちは可愛がって、私は相手にされてこなかった。私は勉強ができたからね。とはいえ相当努力したからなんだけど。まあでも向こうからしたら利用価値があったのよ。そんな私のことをあんたは馬鹿にしてたでしょ」
「そんな気持ちは一切なかったわ」
「嘘をつくな。でもあんたが父さんたちを裏切って、ようやく私が可愛がられるようになって家まで買ってもらったのに。それも全部あんたが台無しにした。いっつもあんたは私の人生をめちゃくちゃにしたわ」
「私はただ自分のやりたい人生を歩んだだけよ。そしてあなたにもそうなってもらいたかった。私の人生は親に認めてもらうことが全てよ。それ以外は何も必要としてなかったわ。だからお父さんが持ちかけてきた縁談を受けて、その人と結婚したし子供も産んだわ。仕事だって頑張ってやろうともした。それなのに何もうまくいかなくて」
「旦那さんとはうまくやってるの?」
「あいつはほとんど家に帰ってない。絶対に他の女と遊んでる。こうなったのも全部あんたのせいだから」
「私は関係ない。これは全てあんたが引き起こしたことよ。もっと自分のやりたいことを考えて行動しておけば、こんなことにはならなかった」
「私は自分のやりたいことをやったわ。裕福な暮らしではなくなったかもしれない。でも私の幸せは外側にはないの。心の中に幸せはあるの。あなたにもそんな幸せを掴んで欲しかった。でももう手遅れみたいね」
「お願い。警察だけは勘弁してよ」
「無理よ。私は母親なの。夫と子供を守る義務があるわ。我が家の幸せを壊そうとする人間に容赦することはできない」
「そんな…」
「これに懲りたら2度と私たちに関わらないで」
「お願い。助けてよ。警察には出さないで。その代わりに私たちに援助してよ。こっちはそれなりにお金はあるでしょ。ちょっとの援助だけでいいからしてよ」
「そう。それじゃあちょっと送らせてもらうわ」
「本当?」
「ピーナッツ1個、実家に送るわ。これが気持ちだから、ちゃんと受け取ってね」
その後、捜査の末、お父さんは予想通り大量の罪で逮捕されたそうです。残された母さんは周りから白い目で見られる生活を送ることに。会社も家族も全てめちゃくちゃになったことが精神的に応えたらしく、今は部屋で引きこもりのような状態になっているとのこと。
ちなみにあかりですが、夫とは離婚をしたようで、実家で母さんの面倒を見ていたようです。ただ子育てと母のお世話と仕事の3つをやらないといけない生活で精神的にどんどん追い込まれてしまい、最終的には家族を全て捨てて1人でアパートを借りて生活をするようになったそうです。母さんが子育てができるような状態ではありませんので、子供は衰弱してしまい入院にまでなったのだとか。あかりのやったことは保護責任者遺棄罪が適用され逮捕されました。結果、実刑判決が下されて、今は親子ともども罪を償い中です。刑務所の中でも私に対して恨みを言っているみたいですが、全て自業自得だと理解してから刑務所の外に出てきて欲しいですね。そして何よりも子供が幸せに生活できることを望みます。
一方の私は、みくと幸彦と3人で幸せに生活をしています。周りから見ると決して裕福ではないかもしれませんが、私たちの家庭は笑顔が絶えないものになっています。そして今は幸彦と力を合わせてみくの将来のための貯金を貯めています。どんな人生を歩みたいかは本人に決めてもらって。私たちはそのサポートをするだけですからね。今の私の幸せは、子供が幸せになってくれることです。



