「お母さん、相変わらずブレーですね。高齢出産だから変なのが生まれたかと思って」
私は産後すぐの病室で、見舞いに来た母から開口一番そう言われた。まだ33歳ですけど。
「子供ってのはね、20代のうちに産まないといけないの」
「お母さんの生まれた村の法律ですか?」
「うるさいわね。で、どうだったの?」
「夫に似た可愛い男の子です」
「感謝しなさい。それ私の遺伝子よ」
「使用料でもお支払いすればいいですか?」
母は毎月の仕送りに5万円上乗せしろと言い出した。すでに5万円送っているので、合わせて10万円になる。そんな余裕はありません。
「ケチ。どうせ子供もケチに育つんでしょうね」
「あの、結局何の連絡なんですか?」
「確認よ。障害があったら私の孫としては認めたくないから」
どんな子でも私たちの子ですし、お母さんの許可は必要ありません。そう言い返すと、母は次男のところも2日前に生まれたらしいと話を変えた。
「知ってた。菜子さんとはあまり交流がなくて、私が言ったの。長男嫁とは付き合うなって」
「そうだったんですね」
「菜子さんは無能だけど若いましよ」
「しっかりしてそうですけど」
「ああ、だめだめ。あれは親の躾が悪かったのね。50点満点中5点くらいだわ」
「ちなみにお母さんは何点なんですか?」
「100点に決まってるでしょう」
私は思わず「え?」と声を漏らした。未だに砂糖と塩を間違える人が何を言ってるんだろう。夫が言ってた。遠足の弁当は毎回生焼けの唐揚げが入ってたって。
「人間ミスくらいあるでしょ。で、何の用でしたっけ?」
「もういい」
母はそう言って帰っていった。
数日後、義妹の菜子さんから電話がかかってきた。
「お姉さん大変です。鬼が500万」
「ごめん、菜子ちゃん。意味が分からない」
「私、先週の火曜に出産したじゃないですか」
「うん」
「私は木曜日に産んだよ。惜しかったね」
「同じ日に産みたかったですよね。じゃなくて、ごめんごめん。今日退院して家に帰ってきたら、早速お母がやってきて現金500万置いてったんです」
「なんで?」
「出産祝いですって」
「あの鬼母が?嘘でしょ?」
「本当なんですよ」
「マジか。怪しくないですか?」
「怪しい。あのケチがそんな大金出すわけがないですよね。私も何のお金かわからないから怖くて断ったんですけど、無理やり置いていかれて困ってるんです」
「多分銀行強盗してきたんだよ」
「ありえますね。あの謎の圧力で窓口の人もお金出しちゃいましたかね」
「絶対そう。触んない方がいいよ」
「はい。指紋つけないようビニールに入れてます」
「直樹君には言ったの?」
「帰ってきたら現物見せて説明します。じゃないと信じないでしょうし」
「だよね。金の無心しかしない強欲ババアがそんな大金くれるわけないもん」
「普通にキモいですよね。今まで散々私たち嫁のことをゴミみたいに扱ってたくせに」
「本当だよ。うちなんか妊娠しただけで毎月仕送りさせられてるしさ」
「私なんて『金出さないなら体使え』って言われて、月の時に床の雑巾がけさせられましたからね。行く必要ないのに」
菜子さんは、私みたいに強く言えたらいいけど、母が昔の部活の顧問にそっくりでつい従ってしまうと言った。
「でも掃除なんてやってないんでしょ?」
「はい。クイックルワイパーでシャッと。あんな汚い家の床を今更拭いたところで無駄だよ」
「本当それです」
私は父が生きてる頃は母もまだマシだったと教えた。1人になって暇になったから、嫁いびりに精を出してるんだろう。
「でもこうやってお姉さんに愚痴れるからどうにかやっていけてるんですよ」
「私たちが仲いいのをあいつ知らないからね。悪口全部筒抜けなんですけどね」
それにしても問題はそのお金だ。菜子さんは明日退院だから、私のところにも来るかもしれない。
「動きがあったら教えてください」
「わかった。とりあえず育児頑張ろう」
「はい」
翌日、案の定、母が私の家に現れた。
「あんたも退院したんだって」
「はい」
「33歳で出産して近所に笑われてない?」
また始まった。何が目的なんだろう。500万の件もあるし、母が何を考えているのかますます分からなくなってきた。



