夕食の支度をしながら、夫が突然「タワマンに引っ越そう」と言い出した。三年前に結婚した時は、まさかこんな日が来るとは思わなかった。彼の名義でローンを組むと言い、私は保証人になり、頭金も払うことになった。新しい部屋の鍵を握りしめ、夜景を見ながらワインを飲む未来を想像して、私は幸せだった。そして引き渡しの当日、彼はこう言ったんだ。「悪いんだけど、離婚してくれないかな。財産分与を要求する」私はただ呆…

夕食の支度をしながら、夫が突然「タワマンに引っ越そう」と言い出した。三年前に結婚した時は、まさかこんな日が来るとは思わなかった。彼の名義でローンを組むと言い、私は保証人になり、頭金も払うことになった。新しい部屋の鍵を握りしめ、夜景を見ながらワインを飲む未来を想像して、私は幸せだった。そして引き渡しの当日、彼はこう言ったんだ。「悪いんだけど、離婚してくれないかな。財産分与を要求する」私はただ呆...

「タワマンに住みたいな」
ミキと結婚して三年。いきなり夫がそんなことを言い出した。そろそろ次のステージに行ってもいいんじゃないかなって。それがタワマンに住むことだと言う。ミキは社長だ。小さな会社だけどね。それでも十分すごいよ、とミキは言った。

駅前に立つタワマンに空きがあるらしい。予約段階で埋まりそうだが、地方だから売れ残っているのかもしれない。ミキと一緒に夜景を見ながらワインを飲んで、子供を作って育てる自分を想像したら、ワクワクが止まらなかった。

「子供ができたら今の家じゃ狭いし、見に行ってみようか」
実はもうモデルルームを見てきたと言う夫。名義は夫で、支払いを手伝ってほしいと言う。ミキは協力すると約束した。

数分後、夫は浮かれていた
「タワマン買えそうだよ」
「え、本当?」
「あいつアホだからさ。ちょっとおだてたら買おうか」
「ひどいよ」
「契約したら即離婚してやるんな」
ミキがごねたら無理じゃないかと言うと、夫は笑った
「大丈夫だって。ああいう女はプライドが高いから、泣きついたりすがったりしないんだよ」
そしてこう付け加えた
「LINEの履歴は必ず消せ。写真もだ」
「分かった」
「タワマンの鍵をもらうまでは、会社以外では会わない」
ミキの貯金は三億近くある。一億のタワマンを買っても懐は痛まないだろう、と夫は読んでいた。夫はミキを「銭逃げ場女」と嘲り、自分たちの計画は完璧だとほくそ笑んだ

数日後、夫はマンションギャラリーに行ってきたと言う。地方のタワマンは八千万くらいだと分かったが、最上階を買いたいと言い出した。しかし、ミキは三階でいいと言う。忘れ物をした時のために、階段も使えるからだ。夫は納得しない
「三階なんてタワマンでも何でもないだろう」
でも一億を超えると夫の名義ではローンが通らないらしい。ミキの名義にすると言うと、夫は男のプライドが許さないと反対した

数分後、夫はリオという女に電話していた
「あのアホ女がタワマンの三階とか言い出した」
「そんなのそこら辺のアパートと変わんないじゃん」
夫は年収一千万あるのに、八千万のローンを組むと月々の支払いが二十五万を超えるという。手取りが五十万ちょいだから、半分も支払うことになる。そうなると生活ができない。だからミキにマンション代を全部払わせるつもりだと、夫はリオに話した
「任せろ。俺には完璧な計画があるんだから」
リオは言った
「シ君と一緒ならどこでもいい。地下でも水中でもついていくよ」
夫はリオを愛しいと思い、一生大事にすると誓った

三週間後、ローンの本審査が通った。ミキが保証人になってくれたからだ。夫はミキに礼を言い、これからもっと幸せになろうと言った。ミキも嬉しそうにうなずいた

翌日、夫は会社の先輩の話をミキに話した。タワマン暮らしの先輩が、朝忘れ物をすると十分はロスすると言っていたという。だから三階の方が結果的に良かったかもと言うミキに、夫は「俺は見えを張るために結婚したんじゃない」と優しい言葉をかけた。ミキは感動していた。しかしその言葉は、前日の夜にリオが夫に言った言葉をそのまま使っただけだった

一ヶ月後、夫はタワマンの鍵をもらってきた。引っ越しをしようと言うミキに、夫は突然切り出した
「悪いんだけど、離婚してくれないかな」
ミキは驚いた
「家を買ったばかりだよ」
「分かってる。でもミキとの未来が思い描けなくなったんだ」
「何それ?」
夫は続けた
「財産分与を要求する」
「は?」
「お前が起業してこの三年、俺は支えてきたよな。最初の一年は赤字だっただろう。二年目以降の会進劇は俺の貢献と言っても過言ではない」
ミキは反論したかったが、夫は「切犯が基本だし、お前に勝ち目はないぞ」と脅した
「だったらそっちの預金も半分だよね」
「俺の講座はすっからかんだ。男には色々と付き合いがあるんだよ」
夫は続けた
「家を買うってことは、将来をじっくり考えるよな。その時にゾっとしたんだ。なんでミキとこの先ずっと一緒にいるのは無理だと気づいた」
ミキは静かに言った
「あなたがそれを言うのがむかつくのよ」
それでも、こねるよりは潔く離婚した方がましだと判断した
「分かった。離婚でいいわよ」
「助かるよ」
「財産を隠しても無駄だからな。弁護士会紹介という方法を使えば、お前の資産を調べることができるんだ」
ミキは「よく知ってるのね」と皮肉を言い、ちゃんと半分振り込むと約束した。ただし、株などを現金化するのに三ヶ月は時間がほしいと言う

三ヶ月後、ミキから振り込みが完了したと連絡があった。離婚届けも提出済みだと言う。ミキは家を出ると言っていた

「お互い元気でな」
ミキはそう言って電話を切った

夫は手に入れた一億五千万で、タワマンのローン八千万を一括返済した。残り七千万は自由に使える礼堂。リオと新婚旅行でハワイに行く計画を立てた。結婚式はもう少し落ち着いてからにしようと言うが、夫の心は満たされていた

翌日、夫はミキに礼の電話を入れた
「タワマンのローン一括返済ありがとうな」
「え、何それ?私、一円も払ってないけど」
「そうじゃなくて、結果的にお前のおかげってこと。財産分与してくれたから一括で返済できるからさ」
「あ、そう」
どうやら夫は知らないようだ。ミキは夫に言った
「で、実はちょっと言えてなかったんだけど、最近運命的な出会いがあって再婚したんだよ」
「そうなんだ」
「お前と離婚して大正解」
夫は動揺した
「はい。もう全部終わったから言うけど、財産分与目当てで離婚したんだよな」
「何それ?」
「そのおかげでタワマンも買えたし、リオもすげえ喜んでる」
ミキは冷笑した
「本当にそう思ってるのか?」
「もちろん」
「余裕ぶって惨めにならないように演技してるんだろう」
「違うけど」
夫は本音を吐き出した
「社長だかなんだか知らないけどさ、女のくせに起業して俺の年収を追い抜いた辺りからずっとむかついてたんだよ」
「言ってくれたらよかったのに」
「情けなくて言えるわけないだろう」
「そっか」
新しい妻はミキと違って控えめで、従順な専業主婦として支えてくれると夫は自慢した。家事を分担しようとかケチ臭いことも言わないと

ミキは静かに言った
「最後までそうやって強がるのか」
「泣いて悔しがればよかった」
「泣いても戻らないんでしょ?」
「そうだな」
「だったら諦める」
ミキはこう付け加えた
「そういえば、保証人を外す手続きをさせてほしいの」
「ああ、そうか。お前のまんまだな」
「私単独ではできない手続きなのよ」
夫は新しい妻に収入がないから、両親に頼むと言い出した
「ご両親なら、土地があるでしょ。開発も進んでるし、値段も上がってるはずよ」
ミキはすでに夫の両親に会って話を済ませていたのだ

翌日、夫は父に保証人を頼んだ。父は快く引き受けてくれたが、こう言った
「そういえば、ちょっと前にミキさんが挨拶に来てくれたぞ」
「え、なんで?」
「離婚したんだってな」
「あ、いや、言おうと思ってたんだけど」
まあ、男女のことだ。色々あるだろう、と父は深く追及しなかった

翌日、ミキから振り込まれたのは百五十万円だけだった
「着信三百件って何なのよ」
夫は激怒した
「お前の余金は三億あったはずだぞ」
「正確にはもう使ったと言った方が正しいかも」
「勝手なことすんなよ」
「夫婦で築いた財産ってのは切犯するのが基本なんだよ」
「知ってる」
「それを隠すのは悪質だと見なされるんだぞ」
「そこまで言うなら切犯する」
「当然だろ」
「本当にいいの?」
「当たり前だ」
「いや、だとしたら切犯するのはそっちだから」

ミキは言った
「あれは銀行や投資家から借りたお金なの。要するにマイナスの資産ってこと」
「え、助かった」
「半分も背負ってくれるの?」
夫は血の気が引く思いだった
「いや、ちょっと待て」
ミキは続けた
「私、株なんて一切言ってないんだけど」
「でも売るとか言ってたよな」
「あれはトレーディングカードね。定に出したら八万くらいだったから売るのやめたの」
夫の貯金は三百万しかなかった。創業一年目の借金を返すために、役員報酬を減らして事業資金としてプールしていたのだという
「私、貧乏社長なのよ」

夫はタワマンのローンに追われることになった
「お前、絶対に途中で気づいてたよな」
「なんか変だなとは思ってた」
「保証人を外せって言ったのも、全部わかってたからだろ」
「そもそも夫婦でない私が保証人なのもおかしいでしょ」
ミキは続けた
「でも良かったじゃない?ご両親が力になってくれたんだし」
「そっか。俺が払えなくても実家の土地を売ればいいのか」
「それは無理じゃないかな」
「低当権はついたまま誰かに貸すって言ってたし」
「意味わからないことを言うなよ。人に貸したら親父たちが住めなくなるだろう」
「だってタワマンに一緒に住むんでしょ。だったら家なんてもういらないじゃない」
「はい。お二人ともその気だったわよ」

ミキは離婚の挨拶に来た時に、夫の両親にこう伝えていたのだという
「私が保証人を外れたら、多分あの人があなたがたに頼んでくると思うって伝えておいたの。それで保証人になるんだから、一緒に住む権利くらいあるんじゃないですかねって言ったら、すっかりお喜びになられて」
それは、夫の実家に住むことを意味していた。さらにミキは夫の両親に、土地を売らずに貸すようにアドバイスしていたという。借りる相手は、夫の高校時代の先輩、たけしだった。たけしは夫がかつて命がけで助けた相手で、今は帰農して実家を改装し、子供食堂を開く予定だという
「その方を妨害するほど、あなたはクズじゃないとみんな信じてると思う」

夫は怒りに震えた
「まさかお前、最初から知ってたのか?」
「何を?」
「俺がリオと一緒になろうとしてた計画だよ」
「それは知らなかった」
「じゃあなんで?」
「途中まではウキウキでタワマン買う予定だったよ」
でも、とミキは言った
「私が一人でモデルームを見に行ったことがあったでしょ?」
「あの時に担当の方に言われたの。旦那さんといらしてたのは妹さんだったんですね、って」
「え、仲のいい兄弟で羨ましいです、って」
夫はリオのことを妹だと紹介していたのだ
「念のためお母さんにも聞いたわよ。生き分かれた妹さんとかいますか、って」
「マジかよ」
「その時に思ったの。この人は私以外の人とこのマンションに住もうとしてるんだって」
完璧だと思ったのに、と夫は呟いた
「LINEこっそり見たこともあったけど、全部消されてたし」
「残念ながら、離婚してる時に浮気してたという証拠はない」
ミキは言った
「でも一か八かで訴えてみるわ。離婚して暇だし」
「お前アホなの?俺の状況分かってる?」
「わかんない」
「給料の半分がローンに消えてる状態なの」
「さ、その上、親と同居だと」
ミキは冷たく言い放った
「リオさんって人とは気が合うといいね」
「あのバカは誰とも会わねえんだよ」
「後のことは知らないのでご自由に」
夫が新居への引っ越し準備を終え、リオと新生活を始めた矢先、リオが突然別れを告げた

「私、出てく」
「え?」
「なんかお父さんとお母さんが来て家を見に来ただけかなと思ったら、荷物もどんどん運ばれてきてさ」
「同居するなんて聞いてないんだけど」
リオは続けた
「しかもお母さんがこんな人だなんて思わなかった」
「何か言われた?」
「前の嫁もひどかったけど、今回もポンコツねとか顔も頭も容量も悪い女に息子は任せられないとか」
初対面でそんなことを言う人がいるだろうか
「お父さんはまだマシだけど、お母さんの言いなりだし何の役にも立たない」
「でもさ、部屋は四つあるわけだし、一部屋くらい貸しても良くない?」
「リオのことは俺が守るから」
「何言ってんの?」
リオは言った
「結局一括返済もできなかったんでしょ」
「なんで知ってんの?」
「あんたの元嫁がポストに何か手紙を入れてて、支払い苦しいと思うけど、裁判もするし慰謝料払えとかむかつくことばっかり書いてあったの」
リオは続けた
「カツカツの生活なんてしたくない」
「でもさ、リオもパートとかして、親父もまだ元気だし働いてもらえばローンの足しになるじゃん」
「なんで私が働かないといけないの?」
リオは激昂した
「タワマン三階とか逆に恥ずかしいし、マジで出ていくわ」
「え、ちょっと待ってよ」
「籍を入れる前でよかった」
「リオを張るために結婚するんじゃないって言ってくれたじゃないか」
「あれ?適当に言っただけだから」
「一人じゃ払えない。助けてくれ」
「知らねえよ」

リオは荷物をまとめて出て行った

数分後、夫は呆然と立ち尽くしていた
「お前のせいで何もかも失った」
しかしミキは言った
「家族は残ったでしょ?じじいとババアだけじゃねえか」
「あなたの育った家では、地域の子供たちが集まって楽しくご飯を食べてるわ」
「それが何だ?」
「誰かの笑顔が残った」
「私も裏切りから解放された」
「浮気は許せないけど、アホな男と結婚せずに済んだ」
「それぞれが何かをちゃんと得たと思うよ」
「俺の話をしてんだよ」
「自分が自分に残すものは、自分で見つけてください」
「頼む。一緒に住んでローン払ってくれないか?」
「やだ」
「眺めは微妙だけど、ジムもあるし結構住みやすいよ」
「全力でお断りします」

その後、証拠がないため一度は慰謝料請求を諦めかけましたが、弁護士に相談し、条件を付けてリオが証言してくれることになりました。夫が消したと言っていたLINEは全て保存されており、リオがスクリーンショットを送ってくれたのです。のやり取りを証拠に、ミキは慰謝料百九十九万九千九百九十九円を請求しました

夫は両親に借金して慰謝料を支払ったそうです。今はその返済に追われているとか。その後、夫は両親に家賃十万を要求しましたが、両親から「お前が先に実家に住んでた二十年分を払え」と言われ、泣く泣く引き下がったそうです

食費や高熱費を差し引いて手元に残るのは十五万。そこから慰謝料三百万の分割支払いと、タワマンの引っ越し費用、家具、家電などの分割支払いが重くのしかかり、しばらくは苦しい生活を送ることになりそうです

ミキは家賃八万円のマンションに引っ越し、ひたすら仕事に打ち込んでいます
裏切られるのは辛いですが、せめて私だけは、今後の人生を誠実にまっすぐに生きていくつもりです

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