「娘なんだから相続権あるでしょ」—…

「娘なんだから相続権あるでしょ」—...

「お姉ちゃんギーお疲れ様。大変だったみたいね。お姉ちゃんが全部準備してたってママから聞いたよ」

スマホの画面に見知らぬアカウントからのメッセージが浮かんだ。私は眉をひそめながら返信した。「すみません。どなたでしょうか?」

「ああ、そうだった。連絡来るの面倒くて変えたんだった。みよだよ。覚えてるでしょ?」

みよ。その名前を見た瞬間、10年前の記憶が鮮明によみがえった。私の婚約者を奪った妹。話し合いにも出席せず、姿を消したあの日。

「ええ、覚えてるわ。私の婚約者に手を出したあげく、話し合いにも参加せず逃げたクソ妹ね」

「うわ、ひどい。話し合いも何も、お姉ちゃん冷静に話せない状況だったじゃん。ヒステリックな人と話す時間無駄だし」

「そうならこの連絡も時間の無駄ね」

「いや、それとこれとは別。今日はちゃんと用があるの」

用がある。10年間、一度も連絡してこなかった妹が、今になって何の用があるというのか。「何の用なわけ? こっちには関係ないんだけど」

「そんな冷たくしないでよ。姉妹じゃん」

「10年間一度も連絡しなかったのに。今更何? 早く要件を言って」

「あのさ、お父さん行ったし。遺産いくら?」

はあ。信じられない。父が亡くなったばかりだというのに、よりによって遺産の話。「マジラッキーだよね。だって遺産入るんでしょ。お父さん結構持ってたってお母さんから聞いたし。いくらかなって」

「お父さんが亡くなったばかりなのにそんな話。しかも葬儀にも来てなかったくせに何言ってるの?」

「だって大事じゃん。早く教えてよ」

ふざけている。あれだけのことをしておいて、今さら姉妹面して遺産の話。「ふざけないで。私にしたこと忘れたの。10年前のこと」

「そんな昔のことまだ根に持ってるとか受ける。浮気をとやかく言うけどさ、あの人が私を好きになったんだから仕方ないじゃん。そんなことよりお父さんいくら持ってたの? 5億くらい。不動産とか持ってたしさ。早く教えてよ」

「随分お金について聞いてくるわね。借金でもしてるわけ?」

「借金じゃないけど、実はもう合邸契約しちゃってさ。手付け金も払ったし、お金早い方が助かるの」

「何を言ってるの? わけが分からないわ」

「え、見たままでしょ。ママと一緒に住むの。ママも一人になっちゃうし、もっと大きな家に住み直したいって言ってたから」

「あのさ、なんで豪邸なの? 普通の家でもいいじゃない」

「だってさ、あの時の生活が忘れられなくて。あの時、お姉ちゃんの婚約者と暮らしてた頃の話。あの人お金持ってたしいい暮らししてたんだよね。でもお金使い果たしたから別れたの。やっぱり生活水準って下げるのむずいじゃん。だから今度はお母さんと二人で合邸で優雅に暮らすのよ」

言葉を失った。自分の姉の婚約者を奪って、その男の金で贅沢に暮らし、金が尽きたら捨てる。そして今度は父の遺産で同じことをしようとしている。

「それでお金が必要なわけ。具体的にいくら?」

「1億だけど手付け金800万は払っちゃった。あいつと離婚する時にぶんどったお金で」

「本当最低ね、あなた」

「夫婦で話し合って決めたことだから何か言われる筋合いないし。で、残りのお金はどうするの?」

「残りは遺産で頼むつもりだから早くちょうだい」

「あなたに相続権はないよ」

「は? 何言ってるの? 娘なんだから相続権あるでしょ」

「あなたは娘と思われてないんじゃない?」

「いやさ、確かに取り分は少なくなるでしょうけど、法律上遺留分があるって知ってる? 娘には必ずもらえる権利があるんだから。だから早く手続きしてお金ちょうだい」

「ないものはないわ」

「嘘つかないでよ。自分で家を出たくせに今更娘するのもおかしいでしょう」

「おかしくないし。家出たのは仕方ないことじゃん。私だって辛かったんだよ」

「辛かったですって。あなたが自分の欲望で家を出たくせに。見えたけど私に娘を売れって言うの?」

「当然遺産は入るわ。それなら村瀬さんに直接確認してみて」

「は? 何よ?」

「時間後」

その言葉の意味が分からず、私は混乱したまま電話を切った。しかし、彼女が村瀬さんという弁護士の名前を知っていることが気にかかった。父の遺産を管理している弁護士が村瀬さんだということは、父の死後、私だけが知らされていたはずなのに。

翌日、私は村瀬弁護士の事務所を訪れた。「村瀬さん、ちょっといいですか?」

「青井さん、どうしました?」

「みよから何も聞いてないわよ。ご主人から私が直接預かっていたものです。青井さんも詳しい内容は私から聞いた形になっています」

「なんで私に黙ってたの? 夫婦なのに」

「それもご主人の意思でした」

「どういうことなの?」

村瀬弁護士は書類を一枚、私の前に差し出した。そこには、父が遺言書を書き換えていた事実が記されていた。父は亡くなる間際、遺産の全てを私にではなく、みよに相続させるよう変更していたのだ。

私はその場で立ち尽くした。なぜ父がそんなことを? あの妹に全てを?

村瀬弁護士は沈黙の後、こう付け加えた。「ご主人は最期にこうおっしゃっていました。『青井は強いから大丈夫。みよは弱い子だから、最後くらい甘えさせてやりたい』と」

その言葉を聞いた瞬間、私は怒りと悲しみで胸が張り裂けそうになった。10年間、私は父に対して何もしてこなかったのに。それでも父は妹を選んだ。

私は拳を握りしめ、村瀬弁護士を見つめた。「この遺言書、法的に覆すことはできますか?」

「それは可能かもしれませんが、ご主人の意思を尊重すべきでは……」

「私は、この遺言書を無効にします。みよには何も渡しません。あの日に奪われたものと同じように」

村瀬弁護士は何か言いかけたが、私は背を向けて事務所を出た。外は雨が降り始めていた。私はスマホを取り出し、みよにメッセージを送った。

「遺産の話だけど、明日会って話さない? 場所は区役所の前で」

返信はすぐに来た。「やっと分かった? じゃあ明日ね。お姉ちゃん」

その返信を見て、私は静かに笑った。

「そうね、明日ね。あなたの思い通りにはならないってことを、しっかり思い知らせてあげるわ」

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